最新記事

「日本すごい」に異議あり!

中身なし、マニュアル頼み、上から目線......「日本すごい」に異議あり!

2018年5月8日(火)18時21分
デービッド・アトキンソン(小西美術工藝社社長)

千利休のおもてなしの魂はマニュアルに取って代わられているのか OLUOLU3-E+/GETTY IMAGES

<本来のすごみである「魂」を忘れ、「上から目線」ばかりの茶道――。「宗真」の茶名を持つデービッド・アトキンソン氏が、人口減少をキーワードに「日本すごい」論に警鐘を鳴らす。世界に誇る日本の文化・スポーツ・技術は、実は空洞化しているのではないか。本誌5月8日発売号(2018年5月15日号)「『日本すごい』に異議あり!」特集では、日本が本当に輝くための6つの処方箋を知日派らが提示する>

国宝などの保存修理を行う会社を経営していることもあり、行く先々で「日本文化がすごい」という声を聞く。

確かに日本文化にはすごみがある。書や華(はな)などに生涯をささげる修行者の作品は超一流。一挙手一投足にオーラが漂い、作品には深みが宿る。日本文化の根本はその精神性、「魂」にある。

とはいえ、あまりに無邪気に「日本はすごい」と自慢する人に違和感を覚えることも多い。あなたが自慢する当の文化に魂はあるのか、と。所詮は修行者の動作をマニュアルに沿ってまねただけの「仏作って魂入れず」。中国産漆を塗った「京」漆器。世界遺産登録をしようとしながら糸の98%が中国産で、日本人の手先自慢をしながら仕立ての大半が東南アジアの着物......。中身を伴っていない「文化」が多いのが実像ではないだろうか。

そう思うに至ったのには茶道との出合いがある。自宅の和室を使った趣味ができればと入門し、今では茶名「宗真」を頂き、のんびりとたしなむなどお茶との付き合いは20年になる。

茶道を選んだ理由は主に2つある。日本文化の多くは師と一対一、あるいは自己と向き合って深めるのに加えて、一つのことを極める、いわば「縦」の文化だ。その点でお茶は違う。書、華、香、懐石、菓子、焼き物や漆器などが茶室に集う。日本文化を「横串」にできるのだ。お茶は総合芸術とよく言われる。これが魅力の1つだった。

もう1つは、書や華などと違い、客に給仕するところにある。茶道の魂は人との交流、サロンの場を作ること。この文化は非常に深い。小さな茶室に聖地を生み出すために、先人は心を尽くしてきた。「降らずとも雨の用意」「相客に心せよ」という16世紀の千利休の言葉にその精神は残っている。季節や客の個性などその時々に最適な場を作るために、お点前(てまえ)や茶、器といった「道具」を一つ一つ吟味する。

しかし、総合芸術を実現することは極めて難しい。1人の人物がお茶だけでなく、お花も書も極めるのはほぼ不可能。お花はそれを極めた人にやってもらい、掛け軸に書かれた禅語はお坊さんに語ってもらう。たけている人が集まって、総合芸術となり得る。

人口ピラミッドが招いた変質

では、今の茶道に魂はあるのか。茶会を重ねるたびに疑問は深まった。特に一度に数十人の茶席を1日に十数回、計数百人を招く大寄せ茶会は客をもてなすどころか、さばくだけの場だ。

器に込められた意味や来歴を顧みることなく、「冬だからこれ」「これは夏に使えない」と全てがマニュアル頼みで整えられる。「聖地」にいるうちに、自分たちを日本文化の聖人、真の日本人であるかのように勘違い。他人を「書が読めない」「お花が分からない」「今の日本人は正座ができない」とあげつらい、「今の日本は文化度が低い」と嘆く。精神を置き去りにし、目線だけが高くなったようだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

S&P、丸紅を「A─」に格上げ アウトルックは安定

ワールド

中国、米国産大豆を買い付け 米中首脳会談受け

ビジネス

午後3時のドルは155円前半、一時9カ月半ぶり高値

ワールド

被造物は「悲鳴」、ローマ教皇がCOP30で温暖化対
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 9
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 10
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中