最新記事
シリーズ日本再発見

2次元と3次元、伝統と革新、東洋と西洋──「中間」を行く日本

Japan’s new digital age brings together the old and the new

2018年02月28日(水)19時40分
エスペランザ・ミヤケ(英マンチェスター・メトロポリタン大学講師)

デジタル技術を駆使する日本の「チームラボ」は国外でも人気(2017年、台北) Tyrone Siu-REUTERS

<日本は2つの領域の狭間に存在する国――。英大学研究者が見た、デジタル時代の日本が行く道>

2つの領域の狭間に存在する国――それがしばしば、日本に魅了された人々が抱く日本のイメージだ。

神社仏閣や茶道、墨絵のように美しい桜の花など、伝統ある「古き世界」がある一方で、新幹線や人工知能(AI)を備えた犬型ロボット、クールなゲーム機に代表される、未来主義的な「新しい世界」が輝かしく存在する。

これらを混ぜ合わせ、欧米の人々にとって中毒性のある楽しい調合に仕上げたのが、日本のポップカルチャーだ。漫画やアニメ、ポケモンGOのようなゲーム、映画、さらにはスナック菓子もこれに含まれる(抹茶味のキットカットなんてどうだろう?)。

古代から存在する富士山をバックに立つ巨大ロボットであろうと、あるいは絹の着物をまとい、キラキラと輝くJポップのスターであろうと、日本のポップカルチャーは革新性の中に伝統をパッケージし直し、ひと口で食べられるようにした電子的な寿司のようだ。われわれは日本をむさぼるように消費している(時には罪悪感と共に、時には罪悪感なしに)。

だが、「かわいい(Kawaii)」や忍者、神秘的な味覚である「うまみ(Umami)」以上のこととなると、われわれはどれだけ現代の日本について知っているだろうか。

2次元と3次元、両方の世界に住む

「中間(in-between)」(例えば新と旧、東洋と西洋、甘味と塩味のバランス)を旨とする日本のスタイルを引き継ぐかのように、2次元と3次元の間に存在するデジタルなアート形式の1つが2.5次元ミュージカルだ。

2次元世界の漫画やアニメ、ビデオゲームを、デジタル技術や通信プラットフォームなどを使って3次元の舞台上で再現するこのアートは、当初は一部のファンたちによる現象に過ぎなかった。この10年で有名になり、1つの産業となった。

2.5次元ミュージカルでは、SNSやスマートフォン、字幕メガネ(個々のユーザーの目の前に字幕を投影するメガネ)などの技術を活用し、舞台という枠を超えて一体感や交流を促すことで、観客の体験を豊かなものにしている。

文楽から歌舞伎まで、長い古典芸能の歴史を持つ国で誕生した2.5次元ミュージカルは、デジタルを通じて新旧を1つにした全く新しい体験を作り出す、日本の多彩なクリエイティブ産業の好例だ。

こうしたデジタル現象は、拡張現実(AR)の世界を生きる必要性が増していることを指し示している。製品やサービスはユーザーに対して絶え間なく、デジタル技術を通じて現実をよりリアルにするよう勧めている。

自分自身をデジタル化することは今や珍しくない(Fitbitのスマートウォッチで自分のアクティビティデータを生成し続けるように)し、われわれの人生は、パーソナライズされた小型の2.5次元ステージのようなものだ。

ユーザーが自身の「中間(in-between)」現実をつくる助けになるのが、例えば360度全てを撮影できるカメラ「RICOH THETA」だ。昨年、3Dモデルの「初音ミク」を合成できる限定モデルが発売。ユーザーは自分が選んだ環境で、人気のバーチャルシンガーと並んで「存在」できるようになる。

「中間(in-between)」の国・日本

日本の安倍政権は今、2020年の東京オリンピック開催までにロボット産業を成長戦略の1つの柱にするべく多くのリソースを投じている。

東京五輪はまさに、日本のソフトパワーを押し上げ、日本の国際的地位を強固にするためのインセンティブとなっているのだ(2016年のリオデジャネイロ五輪の閉会式で「スーパーマリオ」に扮した安倍首相を忘れられるだろうか?)。ここでもまた、デジタルの力に期待がかかっている。

日本のメガバンクや地方銀行が手を組んで、新たな仮想通貨「Jコイン」(仮称)の創設を発表したこともある。あるいは東京五輪スポンサーであるトヨタは、五輪期間中に競技場近くで使用できるよう、自動運転の電気自動車(EV)開発に取り組んでいる。日本政府はまた、五輪開催を機にデジタルインフラを整備しようとしている。

一方、これだけ「ハイテク」が強調されるこの国で、UberやAirBnBといった大手デジタルプラットフォームが成功を収められていないことは興味深い。その理由には法的、社会的、文化的なものがあるだろう。

このことは多くの点で、欧米人だけでなく、日本人自身も抱いている「中間(in-between)」の国というイメージを維持するうえで、日本が直面しているプレッシャーを浮き彫りにする。日本は矛盾した緊張感に包まれたまま、「新しい」と「古い」を同時に実現できるだろうか。

日本はおそらく、ある種のデジタル革命の最前線にいる。しかし、日本のこのイノベーションが世界に広がったとしても、固有の特徴を帯びているに違いない。それは、日本という国をこれほどまでにユニークにしている特徴なのだ。

(翻訳:ガリレオ)

The Conversation

Esperanza Miyake, Lecturer - Department of Languages, Information and Communications, Manchester Metropolitan University

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.

japan_banner500-season2.jpg

【お知らせ】
ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮情勢から英国ロイヤルファミリーの話題まで
世界の動きをウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英財務相、11月26日に年次予算発表 財政を「厳し

ワールド

金総書記、韓国国会議長と握手 中国の抗日戦勝記念式

ワールド

イスラエル軍、ガザ市で作戦継続 人口密集地に兵力投

ビジネス

トルコ8月CPI、前年比+32.95%に鈍化 予想
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 6
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 7
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 10
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中