コラム

日本は時代遅れの「世帯主」制度をそろそろやめては?

2020年06月10日(水)18時45分
西村カリン(ジャーナリスト)

新型コロナの給付金の手続きは「世帯主」がやらなければならない monzenmachi/iStock.

<共働き夫婦が多く、経済面でも2人で家族を支えているのに世帯主は1人だけ。夫婦別姓が認められても「世帯主」制度が変わらない限り、その勝利は半分にとどまる>

私は8年前に日本人の男性と結婚した際に、「戸籍制度」「世帯主」といった単語を初めて耳にした。当時は、日本独自の制度に特に関心がなかったというか、フランスとの違いはそんなにないと思っていた。

ところが最近、日本の家族登録制度の特徴に気付いた。新型コロナウイルス感染拡大の影響を抑えるために政府はいろいろな措置を取っているが、その中に1人当たり10万円の特別定額給付金がある。全ての国民がもらえるが、手続きは世帯主がやらないといけないから、記者向けの政府説明会や新聞記事には「世帯主」という言葉がよく出てきた。

8年前は気にしていなかったが、今回は「世帯主」と聞いたり読んだりすると、何か違和感を覚えてしまう。#MeTooなどのフェミニズム運動の影響もあるかもしれないが、2020年にはこの言葉は時代遅れではないかと思う。

もちろん、世帯主は必ずしも男性ではないが、国勢調査のデータを見るとそうである世帯が圧倒的に多い。母国フランスの制度も調べてみた。確かに、私が子供の頃には世帯主の意味を持つ「chef de famille」という表現を聞いたので、今も使われているかといえば、答えは「ノン」だった。今から50年前、1970年にその概念は法律文書から姿を消した。その後何年かは調査機関が使う社会的カテゴリーの中に残っていたが、それも2000年代の前半に廃止された。フランスでもし誰かが、特に政府の人間が「chef de famille」の言葉を使ったら、間違いなく批判される。

ところが驚いたことに、今も日本人にとっては世帯主がいるのは当たり前のことだ。

厚生労働省の定義によると、世帯主とは「年齢や所得にかかわらず、世帯の中心となって物事をとりはかる者として世帯側から申告された者をいう」。家族の代表が必要だという考え方は理解できるけれど、フランス人女性からすると、「主」が問題だ。なぜなら、この「主」は犬や猫の「飼い主」と同じ主。または、株主の主。つまり「持つ」「所有」の意味が含まれていると同時に、「管理」の意味もある。世帯を持って管理する人。世帯はほとんどのケースで家族だから、家族のボスと同じ意味ではないか。昔はそうだったかもしれないが、今は共働き夫婦が多く、経済面で2人とも家族を支えて代表しているはず。でも世帯主は1人だけ。しかも一度決めたら、変えるのも面倒くさい。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身も認める「大きな胸」解放にファン歓喜 哺乳瓶で際どいショットも
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 6
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 7
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story