コラム

ドイツ発のモバイルバンク「N26」は、欧州キャッシュレス化の震源地

2020年11月05日(木)17時00分

世界のモバイルバンクの先陣となったN26は、7年前にベルリンで創業された...... ©N26

<世界のモバイルバンクの先陣となったN26は正式な銀行ライセンスを取得したドイツの銀行で、25カ国に広がる500万人以上の顧客を魅了している......>

モバイル世界のためのデジタル銀行

数年前まで「銀行」は、都市の中心に大きなオフィスを構え、律儀なスーツを着た人々がいる場所だった。銀行は長い間、保守的な考えの砦であり、そこに革新性を感じることはなかった。

しかし、2008年のリーマン・ショックが明らかにしたのは、世界中のメガバンクが株式、債券、デリバティブなどの「カジノ」投資のトレーダーであり、金融工学の覇者であったということだ。これをきっかけに、個人のお金を守り、その適正な運用に焦点をあてた技術者たちの「目覚め」が、フィンテック(金融情報技術)のイノベーションを加速させた。

現在、チャレンジャー・バンクと総称されるモバイルバンクは、欧州の数多くのフィンテック・スタートアップによって運営され、日常的な銀行の世界に新しいアイデアとイノベーションをもたらしている。世界のモバイルバンクの先陣となったN26は、7年前にベルリンで創業された。

N26はスマートフォンに直接接続する銀行だ。人々が必要とする最も一般的なサービスを提供する、新しい金融サービス・プロバイダーの先駆者でもある。N26は、EU居住者であれば、パスポートと携帯番号、住所登録によるオンラインID認証で、8分で銀行口座が開設できることを売りにしてきた。事実、筆者の場合は5分で口座開設が可能となり、N26マスターカードは2日で自宅に郵送されてきた。

21世紀の銀行改革

モバイルバンキングの標準は、N26によって作られたと言っても過言ではない。N26は正式な銀行ライセンスを取得したドイツの銀行で、25カ国に広がる500万人以上の顧客を魅了している。創業者のValentin StalfとMaximilian Tayenthalは、制度的で機能不全に陥ったままの業界に新たな基準を設けるため、2013年にN26を立ち上げた。

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2017年6月15日、ベルリンのイノベーション・ハブ「Factory」で開催されたフィンテック・シンポジウム。銀行を変えるゲームチェンジャーとしてN26の創業者のひとり、Maximilian Tayenthal(左から2人目)が登壇した。©Factory Berlin

N26(Number 26)という企業名は、複雑なルービックキューブの最小の解法といわれている「26手」に由来する。彼らのビジョンは、最新のテクノロジーを駆使して、お金の管理方法を変革し、複雑な銀行業務を簡易にする「解法」をユーザーに提供することだった。

N26は創業以来、ベルリン、バルセロナ、ウィーン、ニューヨーク、サンパウロにオフィスを構え、80カ国にまたがる1,500人以上の従業員を擁するチームに成長した。2019年夏、米国への市場参入を開始したN26は、わずか5ヶ月で25万人の顧客を獲得した。今後はブラジルを主要な市場として捉えている。

デジタル・バンキングと自己主権

N26の銀行口座には、世界中で利用できる無料のマスターカード/デビットカード(預金口座と紐付けられた決済用カード)が付いてくる。N26の口座はGoogle PayやApple Payにも対応しており、店舗での支払いはもちろん、オンライン・ショッピングでも電子決済を利用できる。

カードの紛失や盗難の場合、これまでは銀行やクレジットカード会社に電話して口座のロックを依頼していたが、N26 はそれらをユーザーの自己主権に変更した。個人の手元で自身のお金のすべてを管理ができることが革命のはじまりだった。

N26のアプリ内では、毎日の利用限度額や出金限度額の設定や変更、カードのロックやロック解除、オンラインや海外での支払いの有効化や無効化、暗証番号のリセットなどをスマホやPCから自分の手で即座に行うことができる。N26アプリに内蔵された機能を使えば、19種類の通貨で送金することもできる。その手数料は、従来の銀行と比較して最大6倍の節約が可能である。

筆者がN26を使いはじめたのは3年半前のことだが、当初からその使い勝手のよいユーザー・インターフェイスに魅了された。当時、何より驚きだったのは、カードでの支払い、ATMでの引き出し、口座からの引き落とし、送金やお金の受け取りなど、すべてはスマホへのリアルタイム・プッシュ通知機能によって、口座に出入りするすべての取引を追跡でき、お金の引き出しや入金、振込など、いつでも最新情報を確認できることだった。

プロフィール

武邑光裕

メディア美学者、「武邑塾」塾長。Center for the Study of Digital Lifeフェロー。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。インターネットの黎明期から現代のソーシャルメディア、AIにいたるまで、デジタル社会環境を研究。2013年より武邑塾を主宰。著書『記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済』(東京大学出版会)で、第19回電気通信普及財団テレコム社会科学賞を受賞。このほか『さよならインターネット GDPRはネットとデータをどう変えるのか』(ダイヤモンド社)、『ベルリン・都市・未来』(太田出版)などがある。新著は『プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明』(黒鳥社)。現在ベルリン在住。

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