最新記事

米企業

今も自然界と人体に「発がん物質」を残す、モンサント社とは何だったのか

What Was Monsanto?

2022年1月20日(木)18時48分
トム・フィルポット(マザー・ジョーンズ誌記者)

220125P56_MST_01.jpg

バイエルによるモンサント買収後も、除草剤ラウンドアップは世界中で販売されている(2017年) MIKE BLAKEーREUTERS

その最大の理由の1つは、新生モンサントが古いモンサントの看板商品であるグリホサート除草剤「ラウンドアップ」を維持したことにある。農家の雑草管理を激減するこの商品は、74年の発売以来、世界中の農家の支持を得た。

モンサントはこのラウンドアップを維持する一方で、ラウンドアップに耐性がある作物の開発にも取り組んだ。こうして完成されたのが、遺伝子組み換え作物(種子)の「ラウンドアップレディー」だ。特許保護されたプレミアム価格の種子は、極めて利益率の高い収入源となった。

実際、ラウンドアップレディーは90年代半ば以降、アメリカの農場を席巻した。とりわけトウモロコシ、大豆、綿花の3大作物で広く採用され、現在では全米の耕地面積の半分以上で使われている。同時に、除草剤のラウンドアップの売り上げも急増した。

モンサントがバイオ企業として確立する道筋をつくったロバート・シャピロ元CEOは95年、「植物の遺伝子に情報を組み込めば」除草剤の使用量を減らして、「新しい農業をもたらせる」と語った。

だが、エルモアが『シードマネー』で指摘するように、実際にもたらされたのは壊滅的な結果だった。大方の予想どおり、ラウンドアップに耐性を持つスーパーウィード(雑草)が登場した上に、ラウンドアップはモンサントの説明よりも人体への毒性が高い疑いが大きくなった。

終わらない被害の歴史

それなのに、スーパーウィードを除去するために、さらに大量の除草剤が散布された。ラウンドアップの原料の1つであるリン酸が採掘されるアイダホ州の鉱山は、「近隣の土壌と地下水を、危険な薬物と放射性物質で汚染した」ことが米環境保護庁(EPA)によって確認された。

ラウンドアップレディーを使えば、30年までに収穫量は倍増するという宣伝文句も、実現性は乏しかった。パーデュー大学は20年、遺伝子組み換え種子により収穫量が増えるという「証拠はゼロ、またはほとんどない」という研究結果を発表した。

『シードマネー』は、モンサントの驚くべき事実を数多く明らかにする。だが何より驚かされるのは、その商売のやり方が、長い歳月を経ても全く変わっていないことだろう。

「古いモンサント」は、PCBの人体や環境への有害性が立証された後も長い間、その販売をやめなかった。そして「新しいモンサント」は、ラウンドアップに続くジカンバ系除草剤が環境汚染を引き起こすことが内部文書で指摘されても、その製造販売を続けた(バイエルもジカンバの製造販売を続けている)。

光と影が入り交じったモンサントの歴史は、ついにとどめを刺された。だが、同社がアメリカの農地と周辺地域にに与えた被害の歴史は、終わりに近づいてさえいない。

©2021 The Slate Group

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ブラジル首脳が電話会談、貿易や犯罪組織対策など協

ワールド

米議員、トランプ政権のベネズエラ船攻撃巡り新たな決

ワールド

トランプ氏、バイデン氏の「自動署名文書」を全面無効

ワールド

ヘグセス長官、米軍の「麻薬船」追加攻撃を擁護 生存
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 3
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 4
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 5
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 6
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 9
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 10
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中