最新記事

環境汚染

環境汚染でイルカの母乳がほとんど毒に

Harbor Porpoises Ingest So Much Poison Their Milk Is Toxic to Their Calves

2019年12月3日(火)18時20分
ロージー・マッコール

中国江西省のハ陽湖で研究者が調査目的で捕まえたネズミイルカ科のスナメリ。環境汚染で絶滅が危惧されている(2015年) REUTERS

<滋養がたっぷり必要な子どもに、体内でいちばん強い毒を出してしまう母親という痛烈な自然の皮肉>

近海に生息するネズミイルカは、あまりに多くの有毒物質を体内に摂り込んだ結果、母乳も有毒になっていると、「環境科学」に論文を発表した研究者は警告した。

小型のイルカ、ネズミイルカの体内にあるポリ塩化ビフェニル(PCB)を調べた研究で、ネズミイルカの子どもの体内にあるPCBは、母親の体内にあるPCBより毒性が強いことがわかった。これは、母親の解毒メカニズムが無意識にいちばん強い毒を母乳と一緒に体外に排出しようとするせいだと、主執筆者の英ブルネル大学のロージー・ウィリアムスはいう。


PCBは1920年代に登場し、電気製品や塗料などに使われた。1980年前後に世界中に禁止されたが、環境中からは今も消えることなく、野生動物を傷つけ続けている。

廃水と共に海に流れ込んだPCBは、海の食物連鎖に入り込む。PCBを摂り込んだ小魚をより大きい魚が食べ、その魚をイルカが食べるといった具合に食物連鎖の上にいけばいくほど、PCBの濃度は高くなる。そしてネズミイルカでは、それが母乳を通じて子に受け継がれている。

その毒は、イルカの神経発達を阻害し、免疫や繁殖に悪影響を及ぼしかねない。

一方、PCB濃度が生涯で最も高くなるのはオスだ。メスと違い、子どもに毒を押し付けることができないからだ。

「悲劇的な皮肉だ」、とウィリアムズは言う。環境中のPCBは徐々に減り始めているが、動物への悪影響はまだ続く。

<参考記事>このアザラシ、海鳥、ウミガメを直視できるか プラスチック危機の恐るべき脅威
<参考記事>プラスチック汚染の元凶「人魚の涙」を知っていますか?

20191210issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

12月10日号(12月3日発売)は「仮想通貨ウォーズ」特集。ビットコイン、リブラ、デジタル人民元......三つ巴の覇権争いを制するのは誰か? 仮想通貨バブルの崩壊後その信用力や規制がどう変わったかを探り、経済の未来を決する頂上決戦の行方を占う。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、トランプ氏発言で危険にさら

ビジネス

テスラ、米生産で中国製部品の排除をサプライヤーに要

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 8
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中