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ケント・ギルバート現象

データで読み解くケント・ギルバート本の読者層

WHAT THE DATA REVEALS

2018年10月29日(月)16時00分
高口康太(ジャーナリスト)

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本誌27ページより

ほかに、立地ごとの売れ行きでも顕著な違いが見られた。DB WATCHは加盟店の立地を都心、駅前、郊外ロードサイド(幹線道路沿い)、地方ロードサイドの4つに分類している。『儒教』と『未来』を比較すると、駅前、郊外ロードサイド、地方ロードサイドではほぼ同様の傾向が見られるが、都心では『未来』が『儒教』の2.5倍以上もの売れ行きを記録している。

POSデータから見ると、ギルバートの主要な読者は、都心以外に住む高齢者で、大ベストセラーの『儒教』以外の保守系書籍も購入するなど熱心なファン......という像が透けて見える。

それにしても、なぜ高齢者、なぜ都心以外なのだろうか。

この疑問にヒントを与えてくれそうな統計がある。それが内閣府大臣官房政府広報室による「外交に関する世論調査」だ。この調査では年齢が高くなればなるほど、中国や韓国に親しみを感じない傾向が明らかになっている。

「韓国に対する親近感」という項目では、18~29歳の50.6%が「親しみを感じる」か「どちらかというと親しみを感じる」と回答。だが、30~39歳が41.5%、40~49歳が41.2%、50~59歳が36.1%、60~69歳が36.6%、そして70歳以上が30.5%と年齢が上がるにつれて親近感は減少している。

対中国でもこの傾向は同様だ。「親しみを感じる」か「どちらかというと親しみを感じる」との回答は18~29歳で31.5%。そしておおむね年齢が上がるにつれ減少し、70歳以上の16.8%にまで低下している。

「外交に関する世論調査」には、都市の規模と親近感に関する数値もあるが、規模が小さいほど中韓に対する親近感は低下する。韓国に対して「親しみを感じる」か「どちらかというと親しみを感じる」との回答は大都市が39.6%だが、町村は34.7%にとどまる。対中国では大都市が21%、町村が13.2%という結果になっている。

年齢が高く田舎に住んでいる人ほど、中国・韓国に対する親近感が低い。そして、この傾向はギルバートの本の主要な読者層と一致している。

年齢が上がるほど愛国的

近年、社会的分断という言葉が注目を集めている。年齢や居住地、所得、学歴、人種によって、政治的意見や信条が異なる閉鎖的なグループが生まれている状態を指す。2016年のブレグジット(英EU離脱)国民投票、ドナルド・トランプの米大統領選勝利では、英米両国の社会的分断が満天下にさらされた。英調査機関ロード・アシュクロフトによると、ブレグジットの投票では、65歳以上は60%がEU離脱へ投票したが、18~24歳では離脱に投票したのは27%にすぎなかったという。

社会的分断が深まれば、グループ間には対話不可能な溝が生まれる。議論によって合意を導き出すという民主主義の基盤を危うくする問題だ。

ギルバートの著作が「都心部以外に住む高齢者」を中心に売れる現象は、日本にも欧米同様の社会的分断が存在することを示しているのだろうか。

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