最新記事

ロヒンギャ

ミャンマー警察官、内部告発で有罪 ロイター記者逮捕の真相判明

2018年5月6日(日)08時29分
大塚智彦(PanAsiaNews)

機密書類不法所持の容疑で逮捕されたロイターのワーロン記者(写真左)とチョーソーウー記者(写真右)。昨年、逮捕前日の12月11日ヤンゴンで撮影(2017年 ロイター/Antoni Slodkowski)

<ミャンマーでロヒンギャ虐殺事件を取材していた記者が逮捕された事件は、アウンサンスーチーの政治指導力が試される試金石となりそうだ──>


ミャンマー・ヤンゴンのインセイン郡区裁判所は5月2日、機密情報に違法に触れた国家機密法違反容疑で公判中のロイター通信社のミャンマー人記者2人の裁判に関連して、「2人の逮捕はでっちあげ」と内部告発した現職警察官の証言を「信用するに値する」と判断、2人が無罪になる可能性が出てきた。

この裁判は、2017年12月12日に警察官から食事に誘われたロイター通信のワーロン記者(32)と同僚のチョーソーウー記者(28)がヤンゴンのレストランで機密書類を渡され、レストランを出た直後に別の警察官に機密書類不法所持の容疑で逮捕され、国家機密法違反で起訴、公判が続いているものだ。

裁判では被告の両記者、その弁護士キンマウンゾー氏が一貫して「容疑はでっちあげであり無罪」を主張していたが、検察側はあくまで容疑は明白との姿勢を崩していなかった。

両記者の所属先であるロイター通信は逮捕直後から「正当な取材活動の範囲を逸脱する行為は2記者ともしておらず、不当逮捕にほかならない」と強く抗議するとともに即時釈放を求め、国際世論もミャンマー当局への批判を強めている中で裁判は進んでいた。

衝撃的な警察官の内部告発証言

ところが2018年4月20日の公判で検察側の証人として出廷した現職警察官のモーヤンナイン警部が「記者の逮捕は仕組まれたものだった」と証言しはじめ、法廷は混乱した。

検察側は直ちに「証人は敵対証人であり却下する」としたものの、イェルウィン裁判官が「問題ないので証言を続けるよう」とさらに証言を促した。これを受けて同警部は「ロイター記者に機密書類を渡した後に逮捕するように警察幹部から命令された。記者を逮捕しなければお前が刑務所に行くことになると脅しを受けた」と警察内部の不正を内部告発する衝撃的な証言を行った。

ミャンマーは長い軍政に終止符を打ち、2016年にノーベル平和賞受賞者で民主化運動の指導者だったアウンサンスーチーさん率いる国民民主連盟(NLD)が政権を掌握、民主化が実現し、スーチーさんは実質ナンバーワンの国家最高顧問兼外相に就任した。しかし国軍・警察という治安組織の政治への影響力は依然として強大で、西部ラカイン州の少数イスラム教徒ロヒンギャ族への「民族浄化」とされる弾圧や北部少数民族「カチン族」などとの戦闘など国内治安情勢は改善の気配が見えない状況が続いている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

パキスタン、国防相が核管理会議の招集否定 インドに

ワールド

韓国与党、大統領選候補指名やり直し 韓前首相に一本

ビジネス

中国4月CPI3カ月連続下落、PPI下落加速 貿易

ビジネス

米政権、航空機・部品輸入を調査 追加関税の可能性
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 3
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノーパンツルックで美脚解放も「普段着」「手抜き」と酷評
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 6
    教皇選挙(コンクラーベ)で注目...「漁師の指輪」と…
  • 7
    指に痛みが...皮膚を破って「異物」が出てきた様子を…
  • 8
    「股間に顔」BLACKPINKリサ、ノーパンツルックで妖艶…
  • 9
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 10
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 6
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 7
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 8
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 9
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 10
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中