「温暖化だけじゃない」 スイス・ブラッテン村を破壊した氷河崩壊、専門家が警告する真の原因とは?

崩壊したビルヒ氷河による土石流がブラッテン村を飲み込もうとしている Pomona Media / REUTERS
<スイス屈指の美しい眺望の村が消えた災害はなぜ起きたのか──>
スイス・ヴァレー州の山村ブラッテン(Blatten、標高約1,500m)は、スイスアルプスを代表する世界自然遺産「スイス・アルプス ユングフラウ=アレッチ」の地域に位置している。レッチェン渓谷にある風光明媚なこの村は、谷の他の3つの村とともに、夏はハイキング、冬はスキーを楽しむ観光地として知られていた。
しかし、今やこの村の名前は違う形で世界に知られるようになってしまった。5月28日午後、巨大な氷河の塊が崩壊し、大量の氷や岩石、泥土がふもとのブラッテン村に流れ込み、壊滅的な被害を受けたからだ。
非常に迅速に行われた避難
氷河と土砂の崩壊に飲み込まれたブラッテン村は、その約90%が埋もれ、約130棟の建物が被害に遭ったが、住民たちは早いうちに避難していた。5月17日、クライネス・ネストホルン山から落ちた岩が氷河に当たり、氷河の一部が流されたことが確認され、同日夕方、まずは住民92人と観光客16人が避難した。そして2日後の19日午前中に、残る約300人が避難した。遅くとも数日内には、大量の土砂が谷に流れ込む可能性があったためだ。
氷河は1日あたり約2メートル、4.5メートル、約10メートルと加速して移動し、28日の轟音を伴う大崩壊に至った(死者1名、行方不明者1名)。同日、他の2つの村でも一部の人たちに避難勧告が出された。
ブラッテンの村民が避難を命じられたのは、今回が初めてではないという。そのためか、ある被災者は「落ち着いています。パニックにはなっていません。この渓谷に住む人たちは自然災害に慣れていますから」とドイツのメディアのインタビューに答えていた。一瞬にして自分の住居も村もなくなってしまった衝撃で、被災者たちはみな、強い喪失感を覚えているだろう。現在、多くの被災者たちは、渓谷の各地で避難生活を送っている。
今回の物的な損害(保険会社がカバーする額)は570億円(3億2000万フラン)に上った。無形資産も入れた正確な損害額は確定できないという。