最新記事

朝鮮半島

いつ北朝鮮攻撃に踏み切るのか悩む韓国

臨戦態勢にはあっても現実にいつどう撃つかの判断は難しい。米軍と協力して「一線」を明確にするしかない

2010年12月8日(水)18時21分
ドナルド・カーク

一触即発 北朝鮮の砲撃以降、南北の軍事境界線付近では緊張が高まっている(韓国側の監視所) Reuters

 非難声明や軍事演習のデモンストレーションといった段階から、いつ実力行使に移ればいいのか――差し迫った危機に直面するアメリカと韓国は、その答えが見い出せないようだ。

 非難声明ならもう十分出している。韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領は11月の延坪島砲撃事件を受けて、次に北朝鮮が攻撃を仕掛けてきたら「断固とした報復措置」を取ると繰り返し明言している。12月4日に就任した韓国国防部の金寛鎮(キム・グァンジン)長官は「北朝鮮が完全に降伏するまで、即座に強力な報復措置を取るだろう」と述べ、沿岸部での軍事演習を実施させた。

 北朝鮮側は、情勢は「刻一刻」悪化しているとの声明を発表。李大統領は、北朝鮮の延坪島など南北境界に近い黄海上の5つの島を「軍事要塞」とし、兵士や武器を増強するとした。遅すぎるともいえるこれらの対応に異論を唱える者はいないだろう。

 難しいのは、いつ攻撃の火蓋を切るかだ。例えば、いつ韓国の戦闘機を北朝鮮へ攻撃に向かわせるのか。今のところ韓国の戦闘機は、領空侵犯してきた北朝鮮戦闘機と空中戦を展開する武装しかしていない。過去にそういった事態が起きたのは、北朝鮮のパイロットがミグ戦闘機に乗って亡命を求めてきた3回だけ。金国防長官は、次に北朝鮮が砲撃をしてきたら戦闘機で砲台を攻撃すると話しているが、それをいつ実行するかははっきりしない。

 北朝鮮が数発の砲撃を行い、死傷者が出なかった場合はどう対応するのか? 数人の犠牲者が出たらどうなのか? 南北を隔てる軍事境界線周辺で銃撃戦が起きたら? 人の少ない山岳地帯で銃撃戦が起きたところで、それ以上の戦闘に発展するのか?

アメリカの考えが見えないのも一因

 米韓の軍関係者の声を聞く限り、どうすればいいか誰も分からないようだ。米軍は北朝鮮の攻撃を阻止できそうな作戦や計画、兵器について議論している。しかし北朝鮮は、彼らがしばしば口にする「全面戦争」に突っ走るほど愚かではない。実際の脅威といえば、散発的な攻撃のほうだ。しかしその攻撃も一時はメディアをにぎわすものの、すぐに終わり、銃撃戦など遠い場所の出来事と思っている5000万人の韓国国民の生活を乱すこともない。

 それゆえに政治家も軍人も答えが出せない。北朝鮮に戦闘機を送るべきか、攻撃元を破壊するまで爆撃を続けるべきか、補給路や軍事基地まで爆撃すべきか、決めることができない。

 韓国が決断できないのは、アメリカがどう考えているか確信が持てないことも理由の一つだ。確かに、バラク・オバマ米大統領の声明は断固たるものに聞こえる。11月に北朝鮮が砲撃を行った直後には、黄海上で行われた米韓軍事演習に原子力空母ジョージ・ワシントンを派遣した。今年3月の韓国哨戒艦沈没事件の際は、中国を刺激することを恐れて空母の派遣を取りやめたことを考えれば、今回の派遣は象徴的にも実務的にも大きな意味がある。

 ジョージ・ワシントンは、アメリカと韓国の協調関係を見せつける象徴的な存在。中国が自国領海の延長にあると主張する黄海で、大規模兵力を展開する米韓の意思を示したことになる。そして実務面では、米軍と韓国軍が複雑な共同作戦(戦争には不可欠なものだ)を遂行する経験を得た。

北朝鮮が越えてはならない一線を定めよ

 それでも肝心の疑問は残っている。北朝鮮がどれだけ韓国にちょっかいを出せば、韓国は北朝鮮が二度と攻撃してこれないほど強硬な態度に出るのか? という点だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英住宅ローン承認件数、1月は2年ぶり低水準 予想外

ビジネス

英製造業PMI、2月改定値は51.7 4カ月連続5

ビジネス

仏製造業PMI、2月改定値は50.1へ上方修正

ビジネス

スイス中銀が異例の口先介入、中東情勢受けたフラン高
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
2026年3月 3日号(2/25発売)

フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 2
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 3
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医師が語る心優先の健康法
  • 4
    ドバイの空港・ホテルに被害 イランが湾岸諸国に報…
  • 5
    「若い連中は私を知らない」...大ヒット映画音楽の作…
  • 6
    「本当にテイラー?」「メイクの力が大きい...」テイ…
  • 7
    「高市大勝」に中国人が見せた意外な反応
  • 8
    【銘柄】「三菱重工業」の株価上昇はどこまで続く...…
  • 9
    【銘柄】「ファナック」は新時代の主役か...フィジカ…
  • 10
    米・イスラエルの「イラン攻撃」受け、航空各社が中…
  • 1
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 2
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 3
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 4
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 7
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 8
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石…
  • 9
    「若い連中は私を知らない」...大ヒット映画音楽の作…
  • 10
    住宅の4~5割が空き家になる地域も......今後30年で…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中