最新記事

ワクチン

新型コロナ:ワクチン接種と公平性のジレンマ

Vaccine: How Will You Know It’s Your Turn

2020年12月16日(水)11時35分
ジェーン・C・フー

ファイザーの「科学への挑戦」は成功したがワクチンの配布には時間がかかる CARLO ALLEGRI-REUTERS

<医療従事者ら感染リスクの特に高い層への接種は最優先されるが、問題はその他大多数の一般市民にどう順位を付けるかだ>

新型コロナウイルスの憂鬱な日々も、ようやく終わる気配が見えてきた。待望のワクチン接種がイギリスとアメリカで始まったからだ。なかには、全てが「コロナ以前」に戻る日を早くも夢見ている人もいることだろう。

しかし日常生活に安全と安心が戻ってくるのは、国民の大多数がワクチン接種を受けてからのこと。だが、出来たてのワクチンが広く一般市民の手に届くのは、まだ何カ月も先のことになる。

米国内では製薬大手のファイザーとバイオ企業のモデルナが別々に開発したワクチンが、年末までに合わせて3500万〜4000万回分、供給されるという。ただし接種は2回必要なので、これでも1750万〜2000万人分だ。つまり、アメリカの総人口の1割にも満たない。残る9割以上の人は順番待ちだ。そして、いつ順番が回ってくるかは分からない。

ワクチンは原則として、優先度の高い人たちから順に提供される。疾病対策センター(CDC)の予防接種諮問委員会(ACIP)が発表した指針によれば、まず最初の段階(1a)では感染リスクの高い医療従事者と長期療養施設の入所者が対象となる。

次の「1b」では清掃作業員などのエッセンシャルワーカー、その次の「1c」では65歳以上の高齢者と基礎疾患のある人が対象だ。

一般論として、「1a」の段階は実施しやすい。接種用のワクチンはまず主要な学術機関や病院に届けられるし、誰が接種対象者かを特定するのも難しくない。

問題はその先だ。今のところ、州政府レベルでは対象集団の詳細な定義などは確定されていない。州の持てる資金と人材を総動員してワクチンの輸送・貯蔵・配布の段取りを決めるのに四苦八苦している段階だ。

公平性欠けば越境接種も

カイザー家族財団の調べでは、州によって情報整理の程度にはばらつきがある。誰が接種を行い、誰が州政府に接種状況を報告するのかも決まっていない。州当局がワクチン接種の優先順位を変えたりすれば混乱が生じる。どんな職種を「エッセンシャルワーカー」と定義するか、どんな基礎疾患のある人を優先するかも問題だ。

そういう問いに対しては、自治体の数だけの答えがあり得る。優先順位の基準が州ごとに異なったらどうなるか、とカイザー家族財団のジェン・ケーツ副理事長は問う。「それでは州と州の間で公平を期すことができない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:アマゾン熱帯雨林は生き残れるか、「人工干

ワールド

アングル:欧州最大のギャンブル市場イタリア、税収増

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買

ワールド

米最高裁、「フードスタンプ」全額支給命令を一時差し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 6
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 10
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 9
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 10
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中