最新記事
日本企業

山積みのホタテ貝殻が「頭と地球」を守る?...大阪万博でも採用、社員11人の町工場発「ホタメット」とは?

PROTECTING HEADS, SAVING THE PLANET

2025年6月26日(木)15時35分
岩井光子(ライター)
ホタテの貝殻を原料にした、甲子化学工業の「ホタメット」

貝殻の構造をデザインに取り入れたホタメット COURTESY OF KOUSHI CHEMICAL INDUSTRY

<日本有数のホタテ産地では年間約4万トンの貝殻が廃棄されて問題に──厄介な貝殻と廃プラでヘルメットを作る「意外な挑戦」が注目を浴びている>

「守るのは、頭と地球」。気になるキャッチコピーが添えられた波打ち際の大きな貝のような物体は、自転車用ヘルメット「ホタメット」だ。廃プラスチックやホタテの貝殻を原料にした新素材「シェルテック」を使ったアップサイクル製品である。

製造しているのは1969年創業の甲子化学工業。社員11人の大阪の町工場で、プラスチック部品の金型製作から成形、塗装、溶着、組み立てまで一貫して行ってきた。


開発に携わった南原徹也は、ゼネコンを経て父が経営する同社に2019年に入社。環境配慮型の製品を求める時代の波を察知し、20年頃から廃プラを原料にした素材開発に着手した。

まずは卵の殻を粉砕して混ぜたエコプラスチックの試作を始めたが、先行企業がいたことから、成分が近いホタテの貝殻に着目した。

ホタテ漁の盛んな土地では、身を取った後に残る大量の貝殻が問題になっている。日本有数のホタテ産地、北海道猿払村を含む宗谷地区の貝殻廃棄量は年間約4万トン。野積みされたままでは、悪臭や景観悪化、環境汚染などのリスクがある。

だが、厄介な貝殻も見方を変えれば、安定して確保できる「資源」になる。南原はここに可能性を感じた。猿払村から貝殻の提供を受け、貝殻1:廃プラ9の割合で混ぜた新素材を、大阪大学の宇山浩教授の知見を得ながら開発。

新品プラを100%利用した際に比べ、最大36%のCO2の排出削減に貢献し、強度(曲げ弾性率)も33%向上するシェルテックが完成した。

編集部よりお知らせ
ニュースの「その先」を、あなたに...ニューズウィーク日本版、noteで定期購読を開始
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

訂正-国連安保理、26日に中ロ提案のイラン制裁復活

ビジネス

インフレ予測の信頼度低い、関税の影響で=リッチモン

ワールド

ウクライナ軍総司令官、ロシアの春・夏の作戦は失敗と

ワールド

イラン、ロシアと250億ドルの原発建設契約を締結=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
2025年9月30日号(9/24発売)

トヨタ、楽天、総合商社、虎屋......名門経営大学院が日本企業を重視する理由

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週にたった1回の「抹茶」で入院することに...米女性を襲った突然の不調、抹茶に含まれる「危険な成分」とは?
  • 2
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、Appleはなぜ「未来の素材」の使用をやめたのか?
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    琥珀に閉じ込められた「昆虫の化石」を大量発見...1…
  • 5
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 6
    クールジャパン戦略は破綻したのか
  • 7
    中国、ネット上の「敗北主義」を排除へ ――全国キャン…
  • 8
    【クイズ】ハーバード大学ではない...アメリカの「大…
  • 9
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...…
  • 10
    砂糖はなぜ「コカイン」なのか?...エネルギー効率と…
  • 1
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 2
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分かった驚きの中身
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 5
    【動画あり】トランプがチャールズ英国王の目の前で…
  • 6
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...…
  • 7
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 8
    「ミイラはエジプト」はもう古い?...「世界最古のミ…
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 10
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中