最新記事
環境

海洋生物の住処も、沿岸都市も両方守る...3Dプリンター製の「バイオな」護岸タイルに期待できる理由

SEAWALL FOR MARINE LIFE

2025年5月13日(火)14時52分
セーラ・ペゼシュク(米フロリダ国際大学博士研究員)、シャヒン・バーシグ(同大学建築学教授)
護岸用「BIOCAP」タイル

3Dプリントのタイルは独特の曲線に深い意味が SARA PEZESHK, CC BY-SA

<フロリダ国際大学の研究者たちが開発したのは、独特のうねうね構造の護岸タイル。従来型の垂直なコンクリート護岸に代わり、海も人も守る新たな可能性に注目──>

ビスケーン湾に臨む米フロリダ州マイアミのモーニングサイド公園(Morningside Park)がこの春、沿岸レジリエンス(回復力)の革新的な取り組みの実験場になる。

公園内の護岸近くに設置されるのは、3Dプリンターで製作されたモジュラーシステム、BIOCAP(沿岸適応・機能最適化による生物多様性改善)タイルだ。


独特の構造を持つタイルは、フロリダ国際大学(Florida International University)建築学部や海洋生物学部の研究者が共同開発した。沿岸都市の海面上昇への適応に貢献すると同時に、海岸沿いの生態系バランスの回復が狙いだ。

護岸は通常、高さ約1.8~3メートルのコンクリート製で、海岸浸食や高潮に対する重要な防壁になる。だが多くの場合、生態学的コストを伴う。自然の力学を損ない、海洋生物の複雑な生息地を消滅させかねないからだ。

水中の過剰な栄養分や汚染物質、浮遊粒子をろ過する海洋生物は水質維持に不可欠だ。成長したカキは、たった1個で1日当たり約200~400リットルの海水を浄化し、窒素やリンを取り除く。これらが除去されなければ、アオコが発生して水中の酸素が激減し、海洋生態系が打撃を受ける。

ろ過摂食型の生物は、浮遊物質が引き起こす水の濁りも軽減する。濁度が低ければ、より多くの光が水中に届き、海草類の光合成を促す。海草は二酸化炭素(CO2)を酸素やエネルギー豊富な糖分に変える一方、海洋生物の重要な食料で、生息場所でもある。

通常の平板な護岸と異なり、BIOCAPタイルには溝や割れ目、水が入り込む「ポケット」がデザインされている。自然な海岸線の状態を模倣したもので、海水をろ過して水質を改善するフジツボやカキ、海綿動物のすみかになる。


自然に基づく波対策を

曲線で表面積が拡大され、海洋生物の定着場所も増える。日陰になるくぼみは、より涼しく安定した微小生息域を提供し、水温上昇や熱波にさらされる海洋生物を守るのに役立つ。さらに、波の衝撃圧を軽減する効果も期待される。

自然な状態では、押し寄せる波のエネルギーは海岸線のでこぼこした表面部や潮だまり、植生によって次第に吸収される。

対照的に、垂直なコンクリートの護岸に波が打ち付けると、エネルギーは吸収されずに跳ね返される。その結果、波の動きが増幅して浸食が進み、荒天時の危険度がより高くなる可能性がある。

BIOCAPタイルは自然な海岸線と同様、波エネルギーの消散を促すよう設計されている。護岸から波をそらして直接的な衝撃を低減し、ダメージを最小限にするためだ。

タイル設置後、開発チームは効果を検証する計画だ。

生物多様性の強化についてはタイル表面の海洋生物の定着状態を、水中カメラによる低速度撮影で確認する。水質評価は、特別に開発したセンサー付属のプロトタイプタイルで行い、水素イオン濃度や溶存酸素量、濁度、水温をリアルタイムで調べる。

波動・波力減衰効果は、BIOCAPタイルと通常の護岸の両方に圧力センサーを取り付けて比較し、異なる潮汐条件や荒天の際の波エネルギーの相違を定量化する予定だ。

沿岸都市が気候変動と自然破壊の二重の難題に直面するなか、BIOCAPプロジェクトが、人間にも環境にも貢献する自然ベースの解決策の一例になることを願っている。

The Conversation

Sara Pezeshk, Postdoctoral Fellow in the Institute of Environment at FIU, Florida International University and Shahin Vassigh, Faculty of Architecture and Institue of the Environement, Florida International University

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.


Reference
Pezeshk, S. (2022). Bio-Tile: An Intelligent Hybrid-Infrastructure. In: Yuan, P.F., Chai, H., Yan, C., Leach, N. (eds) Proceedings of the 2021 DigitalFUTURES. CDRF 2021. Springer, Singapore. https://doi.org/10.1007/978-981-16-5983-6_8

ニューズウィーク日本版 日本人が知らない AI金融の最前線
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年3月3号(2月25日発売)は「日本人が知らない AI金融の最前線」特集。フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに[PLUS]広がるAIエージェント

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRBはAI導入に伴う構造的な失業率上昇を相殺でき

ワールド

中国軍の汚職粛清、指揮系統・即応態勢に打撃=英国際

ワールド

トランプ氏「加齢で不安定化」、米世論調査で6割 共

ワールド

ウクライナ紛争、西側の介入で広範な対立に=ロシア大
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 2
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 3
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 4
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 5
    ペットとの「別れの時」をどう見極めるべきか...獣医…
  • 6
    揺れるシベリア...戦費の穴埋めは国民に? ロシア中…
  • 7
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 8
    IMF、日本政府に消費減税を避けるよう要請...「財政…
  • 9
    武士はロマンで戦ったわけではない...命を懸けた「損…
  • 10
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 3
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 4
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 5
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 6
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 7
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 8
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 9
    ロシアに蔓延する「戦争疲れ」がプーチンの立場を揺…
  • 10
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中