最新記事

映画

痛快会話劇『ナイブズ・アウト』は、古くて新しい名探偵の謎解きドラマ

Reinventing the Whodunit for the Trump Era

2020年1月31日(金)17時15分
デーナ・スティーブンズ

甘やかされて他人に無関心なスロンビー家の人々は、ごく小さなやりとりでも階級格差を見せつける。それは面白くもあり、ぞっとするほど冷たくもある。マルタの母親は不法移民で、娘が警察沙汰に巻き込まれたら国外退去になりかねない。

移民政策をめぐり、家族の中でドナルド・トランプ米大統領を支持する人々とリベラル寄りの人々が議論する場面がある。ただし、そこに義憤はない。社会の変化より、自分の領域を守って富を蓄積することが大切なのだ。

事件については、クライマックスで探偵が「こうしてお集まりいただいたのは......」と真実を解き明かすのではなく、物語の中盤で(完全にではないが)詳細に説明される。その後はさらにフラッシュバックの映像が続き、事件の異なる側面が浮かび上がる。

やがて、小競り合いを続けるスロンビー家の人々より、マルタが優位になっていく。取引と妄想と強欲に翻弄される世界で、ハーランを1人の人間として敬愛してきた彼女は、時にスーパーヒーローより強い。登場人物の関係が微妙に変わり、最後は──マルタが亡き主のマグカップを手に、屋敷のバルコニーで満足げにたたずんでいる。

クレイグの演技はやり過ぎの感もある。だが全ての俳優が、特にクレイグ、カーティス、エバンスは、ジョンソンによる毒気の強い痛快な会話を存分に楽しんでいるようだ。

ジョンソンが監督・脚本を手掛けた2017年の『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』は、性差別や人種差別をめぐって「熱心なファン」によるオンライン上の激論を誘発した一方で、スター・ウォーズの世界を21世紀版に見事にアップデートしてみせた。

とはいえ、46歳にして長編監督5作目ながら多彩な才能を誇るジョンソンに、私としては、スター・ウォーズ新3部作に関与してほしくなかった。最も脂の乗った時期に、超大作シリーズで貴重な機会を無駄にしてほしくないのだ。

ライアン・ジョンソンのミュージカルを、ライアン・ジョンソンの西部劇を、ライアン・ジョンソンの恋愛ドラマを、見たいではないか。

KNIVES OUT
『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』
監督/ライアン・ジョンソン
主演/ダニエル・クレイグ、アナ・デ・アルマス
日本公開は1月31日

©2019 The Slate Group

20200204issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年2月4日号(1月28日発売)は「私たちが日本の●●を好きな理由【中国人編】」特集。声優/和菓子職人/民宿女将/インフルエンサー/茶道家......。日本のカルチャーに惚れ込んだ中国人たちの知られざる物語から、日本と中国を見つめ直す。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ドバイの米オラクル施設に迎撃破片が落下、負傷者なし

ワールド

トランプ政権による大学への人種データ開示命令を仮差

ビジネス

アングル:トランプ関税で変わる米国のメニュー、国産

ワールド

米戦闘機2機、イランが撃墜 乗員2人救助・1人不明
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 2
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ…
  • 5
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 6
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 7
    血圧やコレステロール値より重要?死亡リスクを予測…
  • 8
    中国は「アカデミズムの支配」を狙っている? 学術誌…
  • 9
    イラン戦争は「ハルマゲドンの前兆」か? トランプ…
  • 10
    60年前に根絶した「肉食バエ」が再びアメリカに迫る.…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 6
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 7
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 8
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 9
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 10
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中