コラム

「2国家解決」は幻想だったのか?...「10月7日」から振り返る、イスラエルとパレスチナの「終わりなき混沌の歴史」

2025年05月06日(火)10時30分

一方、イスラエル側では、社会に分断が生まれた。ベンヤミン・ネタニヤフ首相は現在、「人質解放」と「ハマス殲滅」という2つの目標を掲げ、戦闘を継続している。

しかし人質解放のための停戦合意に時間を要し、人質の家族からはネタニヤフが人質解放を最優先としていないと不満が噴出。一方、首相の支持基盤である右派や極右勢力は戦闘の継続を支持し、極右勢力に至ってはガザの再占領とユダヤ人入植地の再建を訴える。


 

イスラエルとパレスチナの間では1993年のオスロ合意を機に、2つの国家が共存する「2国家解決」に向けた和平交渉が始まった。だが、交渉は2014年に頓挫して以来、行われていない。

「2国家解決」のほかには「1国家解決」という考えや、イスラエルにパレスチナが編入されるという案もある。事実、イスラエルはパレスチナの領土を占領し、経済ではパレスチナ人労働者に支えられてきた面がある。

しかし一国家になった場合、イスラエル社会にパレスチナ系住民が増えれば、選挙においてパレスチナ系の政治的な力が強くなる可能性がある。一方、選挙権を与えなければ民主主義国家ではなくなる。

これでは、建国を推進したシオニズム運動の目的だった「民主主義的なユダヤ国家の建設」という理念に反してしまう。こうした事情からアメリカも含め国際社会は最も合理的な案として、「2国家解決」の実現を訴えてきた。

しかし2023年10月を機に、イスラエルとパレスチナは極度の相互不信に陥り、歩み寄りは極めて難しい。和平が実現しなければ、流血が繰り返されることを双方とも理解している。ただ既に双方だけでは解決が不可能な状況だ。

プロフィール

曽我太一

ジャーナリスト。東京外国語大学大学院修了後、NHK入局。札幌放送局などを経て、報道局国際部で移民・難民政策、欧州情勢などを担当し、2020年からエルサレム支局長として和平問題やテック業界を取材。ロシア・ウクライナ戦争では現地入りした。2023年末よりフリーランスに。中東を拠点に取材活動を行なっている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アルゼンチンGDP、第3四半期は前年比3.3%増 

ビジネス

テスラ、独で電池セル生産強化 10億ドル投資へ

ワールド

トランプ氏、入国制限を拡大 シリアなど7カ国やパレ

ビジネス

みずほFG、インドのアベンダスに60%超出資 最大
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 8
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story