コラム

米兵殺害に懸賞金を払ったロシアに「何もしない」トランプ(パックン)

2020年07月25日(土)16時00分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

Russian Bounties for U.S. Troops / (c)2020 ROGERS─ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<ロシアは大統領選への介入でトランプを当選させたことで、他の何よりもアメリカ人を死なせることに成功した>

「賞金稼ぎ」と聞くと、ボバ・フェットを思い出すのは世代のせいかな。

不謹慎だけど、最近のニュースでそう思うことが多い。賞金稼ぎはアフガニスタンの反政府武装勢力タリバン。懸賞首はハン・ソロではなく米軍の兵士。依頼人はダース・ベイダーではなくロシア政府だ。そして一番悲しいことに、これは『スター・ウォーズ』ではなく、現実世界の話だ。

報道によると、ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)が米兵の殺害に賞金を提供しているという。米兵の命の相場は10万ドルで、実際に「成功」した攻撃の報酬が昨年、支払われたそうだ。GRUからタリバンへの数十万ドルの振り込みも確認されているという。ちなみに、この工作を担当したのはGRUの「29155部隊」。「憎い午後(ニクイゴゴ、29155)」でぜひ覚えてください。

ロシアの悪行を把握したCIAや国防総省情報局(DIA)は今年春、重要情報としてPDB(大統領日報)でトランプ大統領に伝えた。しかし報復措置の選択肢を示されても、PDT(プーチン大好きトランプ)は何もしなかった。当然、ロシア側は一連の疑惑を「でっち上げだ」と言う。一方、アメリカの精鋭たちが集めた情報を握っているトランプは......「でっち上げだ」と言う。

でっち上げ? CIAやDIAのお墨付きだし、報道の内容も情報源が匿名とはいえ、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、ウォール・ストリート・ジャーナルが裏を取っているものだ。米報道機関のトップ3。3つを足すと、ニューズウィーク日本版に結構近い信頼度だ!

でっち上げの前は「聞いてない」と、トランプは主張していた。日報を読んでいない? という疑問に対して、ホワイトハウスの報道官は「読んでいるし......大統領はアメリカへの脅威に関して、地球上で最も詳しい人間だ」と断言。でも知らなかった、と。百歩譲って当時は知らなかったとしても、今は知っているはず。それでもトランプは何もしない。

「何もしない」はほかにもある。コロナ渦の中でも、ロックダウン(都市封鎖)を勧めない。マスクを着けない。3つの密を避けない。「感染者を減らすために」、できることなら検査もしない。プーチン大統領にすれば、アメリカ人を死なせるにはタリバンへの賞金より、トランプ大統領を誕生させた選挙介入のほうがはるかに大成功だった。ダース・ベイダーも感心するだろう。

【ポイント】
BOUNTIES? NONSENSE! IF I WANT TO SEE AMERICANS DIE BY MY HANDIWORK...

賞金? くだらん! 私の仕業でアメリカ人が死ぬのを見たければ......

I JUST TURN ON THE NEWS!
ニュースをつければいい!

SLOW DOWN TESTING!!
検査のペースを落とせ!

<本誌2020年7月28日号掲載>

<関連記事:ロシア諜報機関の汚れ仕事を担う、「29155部隊」は掟破りの殺し屋集団

【話題の記事】
・東京都、23日のコロナウイルス新規感染366人で過去最多に 緊急事態宣言解除後の感染者が累計の過半数超える
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・がんを発症の4年前に発見する血液検査
・インドネシア、地元TV局スタッフが殴打・刺殺され遺体放置 謎だらけの事件にメディア騒然


20200728issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年7月28日号(7月21日発売)は「コロナで変わる日本的経営」特集。永遠のテーマ「生産性の低さ」の原因は何か? 危機下で露呈した日本企業の成長を妨げる7大問題とは? 克服すべき課題と、その先にある復活への道筋を探る。

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、集会で経済実績アピール 物価高への不満

ワールド

小泉防衛相、中国から訓練の連絡あったと説明 「規模

ワールド

インドネシアとの貿易協定、崩壊の危機と米高官 「約

ビジネス

来年はボラティリティー高く利益上げるチャンス、資産
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 9
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story