コラム

トランプら「陰謀論トリオ」を大統領警護隊が守る矛盾とは?【風刺画で読み解くアメリカ】

2024年10月24日(木)19時01分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)
ドナルド・トランプ, J.D.バンス, 米大統領選, ローラ・ルーマー

©2024 ROGERS–ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<風刺画に仕込まれた英語のトリックを解くポイントは「狂気」と「代名詞」...アメリカ出身芸人のパックンが解説します>

さあ、僕からの挑戦状だ! 約2カ月で2回もあったトランプ前大統領の暗殺未遂を受けた今回の風刺画だが、セリフがちゃんとオチるように和訳してみてください。引っかけがあるから気を付けてね!

ヒントとして、登場人物を紹介しよう。左のコマはシークレットサービス(大統領警護隊)の面々。右のコマには陰謀論者トリオ。まずは2020年大統領選の不正を訴えた数々の裁判で敗れ、自分も選挙への不正介入疑惑で刑事訴追されているのに、いまだにI won the election(選挙で勝った)と言うトランプ氏。


そして最近トランプ氏とつるんでいる、同時多発テロが米政府の工作だとして9.11 was a hoax(9.11テロはでっち上げ)と主張する、極右インフルエンサーのローラ・ルーマー氏。最後はハイチからの移民がThey’re eating our pets!(われわれのペットを食べている!)と述べたJ.D.バンス共和党副大統領候補。

3人のセリフだけでもオチになるほど荒唐無稽な主張だが、そこは挑戦状の正解ではない。警護隊のセリフに注目してね。

ちなみに、バンス氏は、テレビのインタビューでペットの話は事実無根だと指摘されたとき、真実でなくても「メディアが注目するなら、物語を作ってもいい」という詭弁で正当化した。ところでそのバンス氏は昔、掛け売りのホストクラブに通い、多額の借金をつくって、パパ活をしていた時期もあるらしい!(もちろんウソだけど、これでメディアが注目すればいいだろう?)

ではお待たせしました、解答だ。ポイントは右のコマにあるonesの訳。普通は「人々」を指す代名詞だ。例えばThe ones we loveは「私たちが愛する人々」。だが、ここでそう訳すと警護隊は保護対象の「人々(3人)」に「不特定の狂気的な危険人物を近づけさせない」と言っているだけ。ちっとも面白くないね。

この場合、onesはその前の文節に登場する人物に係る形になる。正しい訳は「大統領警護隊の仕事は不特定の狂気的な危険人物を......われわれが保護する『狂気的で危険な人物』に近づけさせないことだ」。漫才だったら「保護対象のやつも狂気的で危険なんかい!」とツッコミが入るところだ。うまい!

確かにそんな矛盾を抱える仕事って大変そう。だが、気になる。その警護隊が守る危険人物から国民を守るのは誰?

ポイント

SECRET SERVICE
大統領警護隊。大統領経験者も警護する。2度の暗殺未遂を受け、主要政党の正副大統領候補に現職と同等の警備体制を敷くよう警護隊に求める法案が9月に可決された。

LAURA LOOMER
ローラ・ルーマー。9月の大統領選テレビ討論会に同行するなど、トランプと近しい。ハリス副大統領が大統領になれば「ホワイトハウスがカレー臭くなる」というSNS投稿で批判を浴びた。

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:米航空会社、感謝祭目前で政府閉鎖の影響に苦慮

ワールド

アングル:ガザ「分断」長期化の恐れ、課題山積で和平

ビジネス

国内外の不確実性、今年のGDPに0.5%影響=仏中

ワールド

ウクライナ、ハルシチェンコ司法相を停職処分に 前エ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ギザのピラミッドにあると言われていた「失われた入口」がついに発見!? 中には一体何が?
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 6
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 7
    「流石にそっくり」...マイケル・ジャクソンを「実の…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    炎天下や寒空の下で何時間も立ちっぱなし......労働…
  • 10
    【銘柄】エヌビディアとの提携発表で株価が急騰...か…
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story