コラム

米議会議員の大統領弾劾への賛否はこの20年で大逆転!(パックン)

2019年11月02日(土)14時00分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

Impeachment Amnesia / ©2019 ROGERS─ANDREWS McMEEL SYNDICA

<99年のクリントン弾劾を先導した共和党議員は現在のトランプ弾劾には否定的で、民主党議員はその正反対。つまり与野党議員の大統領弾劾への賛否は全員180度転換した>

時がたつと人は変わる。米共和党の重鎮、リンゼー・グラム上院議員が変わったように。昔は、「犯罪じゃなくても、公職に適さない行為をしたら罷免だ!」とか、風刺画のように「Impeachment is about restoring honor and integrity to the office(弾劾は公職の名誉と品位を取り戻すものだ)」と公言していたのに、今は、性的暴行を自慢し、1万3000以上のウソめいた発言をし、条約や法律を踏みにじる大統領にも文句はない(最近、シリア撤退で少しもめているが)。まるで Fuck honor and integrity(名誉と品位なんかくたばれ!)と言わんばかりだ。注:アメリカの上品な媒体ではお下劣な言葉を伏せて、☆などの絵文字で代替する。でもここは日本だし、Fuck that rule(そんな決まりなんかくたばれ)。

グラムだけではない。ミッチ・マコネル上院院内総務も、1999年には当時のビル・クリントン大統領を「勝つために手段を選ばない嘘つき」と非難していたわりに、同じことが指摘されるトランプをかばう。ちなみに、マコネルはトランプとウクライナのゼレンスキー大統領の間に軍事支援と情報の「取引」はなかったとして、弾劾には否定的だ。残念ながら先日、ミック・マルバニー大統領首席補佐官代行が「取引」を認めた。だからといってマコネルの姿勢が変わる見込みはない。言い訳が変わるだけだろう。

99年から現役の議員はほぼ100%、弾劾の賛否が入れ替わっている。それも、野党を含めて。クリントン弾劾に慎重だった民主党議員はトランプ弾劾にイケイケどんどん。党を問わず、人は変わるのだ。

しかし、2つの弾劾の違いを忘れてはならない。クリントンは民事裁判で、インターンとの性的関係について偽証したことと、捜査を妨害したことで弾劾された。トランプはロバート・ムラー元特別検察官の捜査で、やはり嘘と司法妨害が確認されている。その上、トランプは選挙運動に外国の介入を呼び掛けた事態が新しく発覚した。2人の大統領の容疑は犯罪行為という点は一緒だが、婚外セックスと選挙不正では民主主義制度に与えるダメージの次元が違う。新旧の弾劾への賛否が与野党とも変わっても、両党を一緒くたにするのは少し乱暴かもしれない。国にとっての脅威度が変われば、正しい行動も変わるはず。

結局、人は変わると言いながらも、悪い政治家の政局優先や国民の分裂傾向に変わりはない。法治国家としてのアメリカが揺らいでる今では、それが恐ろしい。弾劾がなくても、来年の選挙で大統領が代わればいいけど、国民が同じ倫理や同じファクトを共有できるように社会が変わらないと、選挙の結果は変わらない可能性が大。信じたいことを信じる人の票で、トランプ大統領の「お代わり」が来るかもしれない。

<本誌2019年11月05日号掲載>

20191105issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

10月29日発売号は「山本太郎現象」特集。ポピュリズムの具現者か民主主義の救世主か。森達也(作家、映画監督)が執筆、独占インタビューも加え、日本政界を席巻する異端児の真相に迫ります。新連載も続々スタート!

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB金利据え置き、中東情勢の不確実性を指摘 年内

ワールド

原油先物5%上昇、IRGCが複数のエネルギー施設攻

ワールド

中国、27年までの台湾侵攻計画せず 米情報機関が分

ワールド

イラン新指導者「犯罪者は代償支払う」、政権幹部ラリ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポリ」が中東へ
  • 4
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 5
    モジタバの最高指導者就任は国民への「最大の侮辱」.…
  • 6
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 7
    ガソリン価格はどこまで上がるのか? 専門家が語る…
  • 8
    観客が撮影...ティモシー・シャラメが「アカデミー賞…
  • 9
    「ネタニヤフの指が6本」はなぜ死亡説につながったの…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 3
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 6
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 9
    住宅建設予定地に眠っていた「大量の埋蔵金」...現在…
  • 10
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story