コラム

中国人が大好きな「悪いカリスマ」では、民主国家には変われない

2023年03月29日(水)15時40分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
中国社会

©2023 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<その巧みな話術で人々を惹きつける「自称・自由闘士」郭文貴は逃亡先のアメリカでも詐欺容疑で逮捕された。中国人が魅了される「毒をもって毒を制する」ことの限界とは?>

いま最も有名な中国人大富豪といえば、郭文貴(クオ・ウエンコイ)だろう。

郭はかつて中国で実業家として巨万の富を得たが、後ろ盾だった国家安全省の官僚が汚職で失脚し、その後ニューヨークで逃亡生活を送っていた。

トークの達人で、2017年以来SNSを利用して中国政府幹部らの腐敗や不倫、謀殺疑惑などをどんどん告発。独裁政府と戦う「自由闘士」のイメージで世界にアピールしていたが、ついに先日、詐欺などの疑いで米当局に逮捕された。

郭は謎の多い人物だ。複数のパスポートを持ち、年齢も現在52歳か54歳か分からず、名前も時に「郭浩雲」を使っていた。

1990年代に中国国内で詐欺事件に巻き込まれ一度アメリカに逃亡。14年にアメリカへ逃げたのは郭にとって4回目だった。中国では賄賂、誘拐、強姦容疑で刑事告訴されている。

「私は中国を変え、世界を救おうと努力している」「全ては今から」と豪語する郭は人々に希望を与え、たくさんの信者を集めた。

各国のメディアが争って報じる人物にもなり、「新中国連邦」という新政府の創設さえ提唱したが、それもお金を集める手段の1つだったのかもしれない。逮捕後、10億ドル超の詐欺容疑で起訴された。

明らかに政治を利用した偽の「自由闘士」なのに、有名人や民主・自由派を含むたくさんの人々から支持を集めたのはなぜか。1つはカルト的心理が理由だろう。

普通の人間は、誰でもカリスマ的指導者を崇拝する気持ちを持っている。ヒトラーも毛沢東もそうだった。海外における最も大きな反中国政府の宗教団体である法輪功も同じ。

郭はトークの達人である上、その振る舞いもなかなかカリスマ的だった。中国のハイレベル層とも関係を持ち、トランプ前米大統領の上級顧問だったスティーブ・バノンとも親交があった。

もう1つは「以毒攻毒(毒をもって毒を制する)」という考え方。郭は悪者だが、悪者だからこそ悪い独裁政権に対峙できる、という考え方が中国にはある。

この漢方由来の古典的な考え方を信じ込む中国人は常に存在する。これも、中国が本当の民主国家に変われない理由だろう。「カリスマの輝き」と「毒性」は、独裁者特有の性質だからだ。

ポイント

推翻共产党
共産党を倒せ

郭文貴
1968年もしくは70年山東省生まれ。家具工場経営などを経て90年代に不動産王・政商として名をはせる。14年に後ろ盾だった国家安全省次官の逮捕情報をつかみ、アメリカへ逃亡。

新中国連邦
郭文貴とスティーブ・バノンらが2020年に設立を宣言。中国共産党を倒し新憲法を制定、三権分立国家の実現を目指すとしていた。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国レアアース輸出、9月に急減 3カ月連続の減少

ワールド

米副大統領、オバマケア税額控除は「不正の手段」と批

ビジネス

中国輸出、9月8.3%増で3月以来の伸び 輸入も加

ワールド

ガザの生存人質20人きょう解放へ、ハマスが名前公表
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃をめぐる大論争に発展
  • 4
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 9
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレクトとは何か? 多い地域はどこか?
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 6
    祖母の遺産は「2000体のアレ」だった...強迫的なコレ…
  • 7
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 8
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 9
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 10
    赤ちゃんの「耳」に不思議な特徴...写真をSNS投稿す…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story