コラム

習近平が突然の「節約令」、中国の食糧危機は意外と深刻?

2020年09月04日(金)13時40分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)

A Cautious Chairman / (c) 2020 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<歴史上、中国では食糧危機がいくつもの政権を倒壊させてきた>

習近平(シー・チンピン)国家主席が8月11日、「飲食店での浪費をやめ、節約習慣をしっかり育てよ」という最高指令を突然出した。この後、中国各地に怪しげな「節約熱潮(節約ブーム)」が打ち寄せる波のように絶え間なく押し寄せた。

遼寧省ではレストランでの食事で例えば10人なら8人分だけ注文する「Nマイナス2」節約法が、湖南省では食べる前に測った体重によって料理の品数を決める対策が呼び掛けられ、北京ダックの名店・全聚徳は「浪費制止監督員」という新ポストを設けて客に「皿に残すな!」と要求した。中国馬業協会は、「ウマのエサ節約のための懇談会」を主催し、ウマも主席の最高指令に従わなければならなくなった。

冗談のような本当の話だが、過去にも節約令はあった。「浪費反対は政治任務」という今年8月の共産党機関紙・人民日報の社説は、1968年2月に中国政府が公表した「節約して革命をやろう」というプロパガンダを想起させる。当時、中国は文化大革命のさなかで、翌69年には中ソ間で珍宝島事件が発生した。52年後の現在、中国では告発があちこちで行われる「ネット文革」が起き、アメリカとの関係も緊張感が高まる一方だ。

今年の中国は新型コロナウイルスと洪水のほか、アメリカとの貿易戦争の影響もあって、政府の食糧備蓄に関心が集まっている。近年、国が備蓄倉庫を大点検すると、必ずと言っていいほどどこかの倉庫で絶妙なタイミングの火事が発生した。人々は、古代中国の勅使が各地を巡って食糧備蓄を大点検するとき、地元の汚職官吏が使い込みを隠蔽するため、ひそかに倉庫に放火した話を連想した。

そもそも現代中国の備蓄倉庫は耐火性が非常に高く、放火以外で火災など起き得ない。共産党幹部の汚職事件を連想し、人々の不信感はいっそう増す。

中国南部で河川の氾濫が続く7月下旬、習は南部でなく東北地方・吉林省の農業事情を視察に行き、その後に節約令を出した。洪水は必ずしも庶民の家屋を倒壊させないが、中国の歴史で食糧危機はいくつもの政権を倒壊させてきた。実は、食糧危機は思ったよりずっと深刻なのではないか。

【ポイント】
节约饲料

飼料を節約しよう。

珍宝島事件
中国がソ連を修正主義と批判する中ソ対立が激しくなるなかの1969年3月、両国国境のウスリー川にある珍宝島 (ロシア名ダマンスキー島) の領有をめぐって国境警備隊同士が軍事衝突。双方に数十人の死者が出た。91年に中国領とすることで解決。

<本誌2020年9月8日号掲載>

<関連記事:中国・三峡ダムに過去最大の水量流入、いまダムはどうなっている?>
<関連記事:中印紛争再燃:中国「多大な損害負わせる」とインドに警告

20200908issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

9月8日号(9月1日発売)は「イアン・ブレマーが説く アフターコロナの世界」特集。「Gゼロ」の世界を予見した国際政治学者が読み解く、米中・経済・日本の行方。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国の韓国造船業への「制裁」、米韓造船協力に影響と

ビジネス

欧州・アジアの銀行株が下落、米国の与信懸念が波及

ビジネス

英マン・グループの運用資産が22%増、過去最高に 

ワールド

ベトナム、所得税減税へ 消費刺激目指す=国営メディ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    間取り図に「謎の空間」...封印されたスペースの正体…
  • 5
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 6
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 7
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    ホワイトカラーの62%が「ブルーカラーに転職」を検討…
  • 10
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 1
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 4
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 5
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 6
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story