コラム

コロナ禍の中国で巻き起こった露店ブームは、忽然と消えた

2020年06月20日(土)14時15分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
コロナ禍の中国で巻き起こった露店ブームは、忽然と消えた

Chinas Swings and Roundabouts / (c)2020 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<大量倒産や失業に対する手軽な解決策として国を挙げて沸き立った露店経済ブームだが、わずか1週間で「急速冷凍」>

5月末、中国各地で突然「露店経済」ブームが巻き起こった。普段は露天商の無許可営業を容赦なく取り締まることでよく知られている治安要員「城管」が、自ら電話をかけて「露店をやろう、ぜひ来てくれ」と誘っているという。しかも、それが大きな記事になって報じられている。皆、啞然とした。中国のSNSに「夏俊峰(シア・チュンフォン)がまだ生きていたらよかったのに」という嘆きが投稿されたのも無理はない。

瀋陽市で露店商として暮らしを立てていた夏は2009年5月、路上に露店を出していた時、無許可営業だと城管に連行され、ひどい暴行を受けた。怒った夏は持っていたナイフで城管2人を刺殺。殺人罪で死刑になった。この事件は今でも中国人の脳裏に刻み込まれている。

これまで不衛生だとか景観悪化だと言って露店を厳しく取り締まってきた中国政府が急に露店推奨に転換した理由は、李克強(リー・コーチアン)首相が5月28日の全人代(全国人民代表大会)閉幕後の会見で、「中国には月収1000元(約1万5000円)の人が6億人いる」「中国西部のある都市で3万6000台の露店を設置したら、一晩で10万人分の雇用が生まれた」と推奨したからだ。コロナ禍で発生した大量倒産や失業に対する手軽な解決策として、露店は一気に全国的ブームになった。各地方の政府幹部も勉強会を開催し、露店経済はまるで露店そのものみたいに活気にあふれた。

ただし、国を挙げて沸き立った露店経済ブームは1週間で「急速冷凍」された。きっかけは、共産党北京市委員会の機関紙である北京日報が6月7日に「中国の玄関として、露店経済は北京にふさわしくない」と記事で反対したこと。この後、各地で露店の取り締まりが再び始まった。

首相が旗を振った政策に急に逆風が吹いたのは、共産党内の政治闘争の影響だともいわれている。ただし、中国の朝令暮改は今に始まったことではない。個人の性生活や人生に国が介入した1人っ子政策は、あっさり2人っ子政策に変わった。

権力者のご都合主義の被害者は、いつの時代も「老百姓(庶民)」だ。

【ポイント】
地摊经济中国生机/地摊经济滚出北京
露店経済は中国の活力/露店経済は北京から出ていけ

城管
城市(都市)管理総合行政執法局職員の略称。1997年に北京市で設置され、各都市に広がった。露天商の無許可営業や違法駐車、違法建築などの取り締まりに当たる。取り締まりの過程で違法な賄賂を要求したり、暴力を振るうことが問題視されている。

<本誌2020年6月23日号掲載>

【関連記事】
・新型コロナ「勝利宣言」のニュージーランドにも新規感染者
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・米6州で新型コロナ新規感染が記録的増加 オレゴンでは教会で集団感染
・街に繰り出したカワウソの受難 高級魚アロワナを食べたら...

20200623issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年6月23日号(6月16日発売)は「コロナ時代の個人情報」特集。各国で採用が進む「スマホで接触追跡・感染監視」システムの是非。第2波を防ぐため、プライバシーは諦めるべきなのか。コロナ危機はまだ終わっていない。

プロフィール

ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
中国出身、作家、コラムニスト。ホテル管理、国際貿易などの仕事を務めたのち、98年に日本に定住。中国語雑誌の編集などを経て、個人的な視点で日本の生活や教育、文化を批判、紹介している。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

ニュース速報

ビジネス

前場の日経平均は小反落、米大統領選討論会と月末意識

ワールド

トランプ氏、最高裁判事の指名を正当化 米大統領選の

ワールド

WTO、EUの対米報復関税を承認 ボーイング補助金

ワールド

OPEC、2021年に予定通り増産に動く可能性低い

MAGAZINE

特集:感染症 vs 国家

2020-10・ 6号(9/29発売)

新型コロナウイルスに最も正しく対応した国は? 各国の感染拡大防止策を徹底査定する

人気ランキング

  • 1

    韓国ネット民、旭日旗めぐりなぜかフィリピンと対立し大炎上に

  • 2

    北朝鮮の韓国乗組員射殺で「終戦宣言を」の文在寅に逆風

  • 3

    無法地帯と化すハイチ 警官が暴徒化する理由とは?

  • 4

    中国漁船団は世界支配の先兵

  • 5

    安倍政権が推進した「オールジャパン鉄道輸出」の悲惨…

  • 6

    日本がついに動く実物大のガンダムを建造、ファンに…

  • 7

    タイ環境相、国立公園に捨てられたゴミを「持ち主に…

  • 8

    ベトナム、日本には強硬だが、中国には黙る韓国政府…

  • 9

    3時間42分にわたって潜水するクジラが確認される

  • 10

    韓国ネットに新たな闇 犯罪者を晒す「デジタル刑務所…

  • 1

    韓国ネット民、旭日旗めぐりなぜかフィリピンと対立し大炎上に

  • 2

    日本がついに動く実物大のガンダムを建造、ファンに動画が拡散

  • 3

    中国軍の侵攻で台湾軍は崩壊する──見せ掛けの強硬姿勢と内部腐敗の実態

  • 4

    尖閣問題への米軍介入で中国軍との戦闘は不可避──仮…

  • 5

    中国人民解放軍、グアムの米空軍基地標的とみられる…

  • 6

    中国の台湾侵攻に備える米軍の「台湾駐屯」は賢明か 

  • 7

    北朝鮮の韓国乗組員射殺で「終戦宣言を」の文在寅に…

  • 8

    核武装しても不安......金正恩が日本の「敵基地攻撃…

  • 9

    美貌の女性解説員を破滅させた、金正恩「拷問部隊」…

  • 10

    台湾有事を想定した動画を中国軍が公開

  • 1

    安倍首相の辞任で分かった、人間に優しくない国ニッポン

  • 2

    中国人民解放軍、グアムの米空軍基地標的とみられる模擬攻撃の動画公開

  • 3

    【動画】タランチュラが鳥を頭から食べる衝撃映像とメカニズム

  • 4

    反日デモへつながった尖閣沖事件から10年 「特攻漁船…

  • 5

    韓国ネット民、旭日旗めぐりなぜかフィリピンと対立…

  • 6

    日本がついに動く実物大のガンダムを建造、ファンに…

  • 7

    中国軍の侵攻で台湾軍は崩壊する──見せ掛けの強硬姿…

  • 8

    米中新冷戦でアメリカに勝ち目はない

  • 9

    尖閣問題への米軍介入で中国軍との戦闘は不可避──仮…

  • 10

    アラスカ漁船がロシア艦隊と鉢合わせ、米軍機がロシ…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら
World Voice

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!