コラム

2020年、中国に押し寄せる大規模リストラの波

2020年01月06日(月)18時00分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
2020年、中国に押し寄せる大規模リストラの波

©2020 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<絶好調だったIT分野をはじめ、数多の危機に直面する中国企業にとって人件費削減が生き残りへの唯一の道に。大規模失業による動乱を避けたい政府の施策は......>

毎年末になると中国企業も1年間の出来事を「整理」する。ユーザーが10億人を超える最人気SNSの微信(WeChat)も2019年の人気投稿トップ15を発表した。第1位は「就職10年、年収100万元、でもリストラはたった10分間──時代があなたを捨てるとき、ひとことも掛けない」という長い投稿だった。

「中国ネットの厳冬期」と呼ばれるIT分野の大規模リストラは2018年末に始まった。2019年に入ると、騰訊(テンセント)は中間管理職の10%を降格に。網易(ネットイース)も部門によって30~50%の人員削減に踏み切り、新浪の「新浪閲読」部門はなんとリストラ率90%......これ以外にも京東商城(JDドットコム)、滴滴出行が続々とリストラ計画を実行した。20年前には新進気鋭で、以来絶好調だった中国のIT分野は早くも「中年の危機」に陥っているようで、人件費削減しか危機を乗り越える方法がない。 

IT企業さえそうなら、製造業はなおさらだ。投資環境の悪化や市場規模の縮小で近年、中国から外資系企業の撤退は増える一方。中国の製造業も「融資難、重税、高コスト、環境問題そして米中貿易摩擦による輸出減少」という5大危機に直面している。世界の自動車市場の低迷で、各国自動車メーカーのリストラは今後数年で合計8万人以上とブルームバーグは予測している。中国は真っ先にこの打撃を受けるだろう。

大規模リストラはすなわち大規模失業で、大規模失業は社会不安をもたらす。不安定な社会は動乱につながりやすい。こういう連鎖を中国政府は一番怖がる。そのため近年、中国の「維穏(治安維持)費」は毎年増えている。

政府が公表した2019年の予算案によると、「公共安全支出」予算は1797億8000万元(約2兆7900億円)。2019年末、国務院は「大規模な失業リスクを全力で防ぐ」ため、各政府機関や地方政府に「就職状況の安定に全力で取り組もう」という意見を公表した。中国政府のこういった「意見」はただの意見でなく命令。政府機関や地方政府を通じて各企業に圧力をかけるこの「意見」から分かるのは、2020年に増えるのは就職率でなく失業率、そして維穏費用だろうということだ。

【ポイント】
騰訊
現CEOの馬化騰(ポニー・マー)が1998年に深圳で創業。メッセージサービス「QQ」とSNSの微信で中国ネットを席巻した。ゲームでも圧倒的シェアを誇る。

維穏費
維穏は「維護社会穏定(社会安定維持)」の略。政府の正式な用語は「公共安全支出費」。国防費の15%を占めるが、地方政府計上分は含まれず、総額だと国防費より多いとの見方も。

<2020年1月14日号掲載>

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2020年1月14日号(1月7日発売)は「台湾のこれから」特集。1月11日の総統選で蔡英文が再選すれば、中国はさらなる強硬姿勢に? 「香港化」する台湾、習近平の次なるシナリオ、日本が備えるべき難民クライシスなど、深層をレポートする。

プロフィール

ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
中国出身、作家、コラムニスト。ホテル管理、国際貿易などの仕事を務めたのち、98年に日本に定住。中国語雑誌の編集などを経て、個人的な視点で日本の生活や教育、文化を批判、紹介している。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

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