コラム

中国で進む習近平の官製トイレ大革命

2018年03月23日(金)16時00分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/唐辛子(コラムニスト)

©2018 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<悪名高い中国のトイレを改善する「トイレ革命」を習近平が推進したところ、党官僚の忠誠心を示すチャンスに使われ豪華トイレが全土で増加中>

習近平(シー・チンピン)政権は「トイレ革命」を推進している。トイレ問題は小さなことではない。文明発展の重要課題だから、観光地や都会だけでなく、農村の人々も衛生的なトイレを使えるようにしろ、と習近平は最高レベルの指示を出している。

なんでも丸見えと評判の中国の「ニーハオトイレ」は、世界でかなり悪名高い。昔の中国は貧乏で、「民は食を以て天と為す」ことばかり考えていて、トイレ事情はほぼ無視されていた。ところが今は飽食でダイエットが品格という時代なので、「民は厠(かわや)を以て天と為す」といわれるほどきれいなトイレが必要とされている。強国の誇りを世界に示す意味も強い。

というわけで、中国は各地で熱心にトイレ革命を展開中。トイレ革命検討会やらトイレ革命勉強チームやらトイレ長責任制やら、いろいろな記事が各地の新聞で取り上げられている。この革命によって、全国で7万カ所もトイレが増えた。「五つ星トイレ」も少なくない。広くて豪華な内装はもちろんソファ付きの休憩室や無料WiFi、マッサージ椅子、飲み物が詰まった冷蔵庫、電子レンジ、それに顔認証システムも。建築費は高価なもので100万元(約1700万円)以上。管理費も安くない。

人民日報によると、ある観光名所には30メートル以内に2つのトイレがある。古いニーハオトイレはよく利用されているが、もう1つの新しい豪華トイレは封鎖中。海抜が高い場所で、真夏でも夜になると氷が張る。つまり使用機能はニーハオトイレと変わらず、大金を投じたのに何の役にも立たない。

どうしてこんな状態になったのか。そもそも「革命」という中国語は「天命を革(あらた)める」の意味で、政権や支配者に不満を持つ民衆蜂起のことであるが、赤い中国の革命は、いつも偉大な指導者の指示のもと下々が自己革命を競わされる。

まあ、これも赤い中国の特色だから仕方がない。だが、こういう上から下への革命は、人民の幸福より北京の指導者の機嫌のほうがずっと肝要だ。これが最高指導者に忠誠心を示すチャンスだと地方官僚はよく知っている。トイレは豪華なほど自分の功績も大きく見える。功績が大きいほど出世も早い。つまり「官は厠を以て功と為す」のトイレ革命なのだ。

【ポイント】
ニーハオトイレ

扉や場合によっては隣との壁すらなく、ほかの利用者に「ニーハオ」と挨拶しながら用を足せるトイレ

「 民は食を以て天と為す」
歴史書『史記』『漢書』の言葉。正式には「王以民為天、民以食為天(王は民を最も大切なものと考え、民は食を最も大切なものと考える)」

<本誌2018年3月27日号掲載>

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

メラニア夫人、プーチン氏に書簡 子ども連れ去りに言

ワールド

米ロ首脳、ウクライナ安全保証を協議と伊首相 NAT

ワールド

ウクライナ支援とロシアへの圧力継続、欧州首脳が共同

ワールド

ウクライナ大統領18日訪米へ、うまくいけばプーチン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 5
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 6
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「軍事力ランキング」で世界ト…
  • 10
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 4
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 5
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 6
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 7
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 8
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 9
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失…
  • 6
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story