コラム

トランプ「機密メモ」公開は、あのハーディング事件にそっくり(パックン)

2018年02月14日(水)18時30分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

トランプが「機密メモ」という鉄パイプでFBIを襲撃 ©2018 ROGERS─PITTSBURGH POST─GAZETTE

<トーニャ・ハーディングの事件以来、非道徳な手を使って他人を倒すことを「トーニャする」と表現する>

フィギュアスケート界の姫、ナンシー・ケリガンが94年に鉄パイプで膝を殴られ、大けがをした。犯人はライバル選手トーニャ・ハーディングの元夫。一連の事件を描いた映画『アイ, トーニャ 史上最大のスキャンダル』(原題I, Tonya)はアカデミー賞に複数ノミネートされた話題作だ。ちなみに事件以来、非道徳な手を使って他人を倒すことを「トーニャする」という表現で指す。

風刺画では鉄パイプを手に愉快に滑るドナルド・トランプ米大統領の隣に、KOされたFBIの姿が見える。ロシアによる大統領選介入にトランプ陣営が協力した疑いを捜査しているFBIは、昨年からトランプの攻撃を受けている。彼は昨年5月にFBI長官を解任した。そして新しい長官を選んだのに、その彼をも批判した。捜査に関わらないと決めた司法長官に怒りをぶつけ、その代わりを務める副長官をも批判した。

1月末にはFBI副長官を辞任に追い込んだ。そして2月2日、捜査の信頼性を疑問視する「機密メモ」を、司法省の反対を押し切って公開した。このメモの作成を主導したのは元トランプ陣営でもある下院情報特別委員長。内容にはあまり説得力がないが、捜査への疑念を国民に持たせる作戦として大成功したとみられる。

このやり方は共和党の常套手段だ。半世紀も前から、不都合な真実を伝える人や機関を「偏っている」「リベラルだ」「腐敗している」「国民の敵だ」「嘘つきだ」などと批判してきた。今や、少なくとも共和党支持者の間では、メディアも専門家も学者も裁判官もそして政府自体も、何を言っても信用してもらえない状態になっている。つまり、どれもトーニャされたってこと。

その中でも、FBIはほぼノータッチだった。共和党寄りの機関だからだ。歴代長官は全員共和党員! 今回の捜査に関わっている職員もそう。なのにトランプの鉄パイプが......。

でも実は、ハーディングの話から少し希望ももらえる。暴行を受けたケリガンはすぐに回復し、リレハンメル五輪で銀メダルを取った。さらに事件の黒幕と思われたトーニャは司法妨害の罪に問われ、スケート界から追放された。FBIも復活するかも! 司法妨害したとしてトランプが追放されるかも! そんなストーリーなら『I, Donald』もぜひ見てみたい。

【ポイント】
機密メモ公開

4ページにわたる文書の内容は、トランプ陣営関係者のカーター・ページをFBIが不正に盗聴・監視していたというもの。トランプは、FBIによるロシア疑惑の捜査が反トランプに偏向している証拠だとしている

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

12月米利下げ予想撤回、堅調な雇用統計受け一部機関

ワールド

台湾、日本産食品の輸入規制を全て撤廃

ワールド

英政府借入額、4─10月はコロナ禍除き最高 財政赤

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、11月速報値は52.4 堅調さ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 5
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 9
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story