コラム

中国人の命は空気よりも軽い

2017年12月05日(火)17時20分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/李小牧(作家・歌舞伎町案内人)

©2017 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<「命は時に鴻毛(こうもう)より軽い」と言われるが、中国人の命は鳥の羽どころか空気より軽い>

最近、日本のあるニュースが中国をにぎわしている。領土問題? 歴史問題? そうではない。

話題をさらっているのは、中国人女子留学生が東京都内で中国人の男に刺殺された事件だ。このコラムでも1年前に紹介したが、殺されたのは都内の大学に通っていた江歌(チアン・コー)という24歳の女性。元カレから追い回されていた友人の「身代わり」になって被害に遭った。

江歌は小さい頃に父親を亡くし、母親が女手一つで育て上げた一人っ子だった。どの一人っ子の親も自分の子供が突然いなくなったら、という不安を抱えている。中国人がこのネタにヒートアップするのは、元・中国人の私にはよく分かる。

さらにこの問題を中国で炎上させているのが、江歌の母親が犯人に死刑を求め、日本で署名運動まで始めていること。日本の司法では初犯で1人を殺しても死刑になるのは極めてまれだが、社会感情や政治状況次第で判決基準が変わるのが当たり前の中国人にそのことは納得し難い。

中国は世界で一番死刑執行の数が多い国だ。人口が多いから当然だと思うかもしれないが、人口が中国の4分の1のアメリカは年間20人。中国は死刑執行数を公開していないが、国際人権団体によれば年間1000人を超すと考えられている。

死刑があっという間に行われるのも特徴だ。冤罪のあまりの多さと国際社会からの情報公開の圧力で、中国政府はしばらく前に「少殺慎殺(死刑執行は少数に、執行も慎重に)」というスローガンを打ち出した。それでも執行数は桁違い。もはや何かが狂っているとしか思えない。

「命は時に鴻毛(こうもう)より軽い」と言われるが、中国人の命は鳥の羽どころか空気より軽い。最近、北京郊外で火事をきっかけに当局が出稼ぎ農民を一斉に強制退去させる事件が起きた。国民の命と人権を軽視する心理は指導者に染み付いている。

不条理に対する江歌の母親の怒りを私は理解する。しかし、世情に流されず、慎重過ぎるほど慎重な日本の司法も支持する。恐ろしいことに中国最高検の機関紙、検察日報は「犯人が中国に帰ったら中国の法律で処罰できる!」と読者をあおっている。犯人は出所後、日本に亡命するかもしれない。

【ポイント】
快点动手吧!

早くやれよ!

「命は時に鴻毛より軽い」
歴史家・司馬遷の言葉。「命は鴻毛より軽い」とよく引用されるが、正確には「命は時に山より重く、時に鴻毛より軽い」

[本誌2017年12月12日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米戦闘機、イラン上空で撃墜 乗員1人救助との報道

ワールド

ロシア・トルコ首脳が電話会談、中東情勢について協議

ビジネス

米3月雇用者数17.8万人増、過去15カ月で最多 

ワールド

トランプ氏、ホルムズ海峡「時間あれば開放できる」 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 2
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 6
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 7
    中国は「アカデミズムの支配」を狙っている? 学術誌…
  • 8
    血圧やコレステロール値より重要?死亡リスクを予測…
  • 9
    『ナイト・エージェント』主演ガブリエル・バッソが…
  • 10
    満を持して行われたトランプの演説は「期待外れ」...…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 6
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 7
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 8
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 9
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 10
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story