コラム

中曽根時代の日本が「アメリカ・ファースト」のトランプを作った

2019年12月11日(水)17時40分
中曽根時代の日本が「アメリカ・ファースト」のトランプを作った

奥多摩の日の出山荘でレーガンをもてなす中曽根首相(1983年) KURITA KAKU-GAMMA-RAPHO/GETTY IMAGES

<アメリカが恐れた日本発展の立役者──巧みな外交術とレーガンとの個人的友情が、保護主義を掲げる現トランプ大統領の世界観を形成していた>

中曽根康弘は日本の首相を約5年間務め、国営企業の民営化を果たしたことでよく知られている。曽根政権時代の日本は経済成長を続け、外交でも世界で存在感を放った。

当時の日本経済の快進撃は、いずれアメリカを凌駕して世界を支配するのではないかという恐れを生み出した。「日本は常に勝ち続けるマージャンの打ち手のようなものだ。他の連中は遅かれ早かれ、もうあいつとは一緒にやりたくないと思うだろう」と、中曽根が語ったのは有名な話だ。

実際、中曽根時代の日本は後世にも影響を及ぼした。アメリカの孤立主義と「アメリカ・ファースト」への退行現象を招いたそもそもの原因だった可能性が高いからだ。中曽根首相退陣のちょうど1年後、現在のトランプ米大統領は映画『カサブランカ』の撮影に使われたピアノのオークションで日本人コレクターに競り負けた。その直後にトランプはテレビで日本に15~20%の関税をかけるべきだと主張。アメリカは「食い物にされて」いる、「自分を守る」必要があると説いた。

つまり、1980年代の日本はトランプ流の世界観の形成に重要な役割を果たしたというわけだ。貿易政策担当のある側近は、「1980年代からずっと(トランプは)腹を立ててきた」と語り、当時のトランプが日本に感じた脅威が関税と保護主義を好む手法の発端だったと指摘する。米ダートマス大学のある教授も、当時の日本の台頭がトランプの国境や通商規制についての基本的な考え方、ライバル国に対するタフで恫喝的な交渉姿勢につながったと論じている。

大国にふさわしい役割拡大を

中曽根は当時のレーガン米大統領ととびきり良好な関係を築き、信じ難いほどうまく日本の台頭を導いた。中曽根は30年先の大統領の怒りに火を付けたが、現職大統領への対応はほぼ完璧だった。

レーガンは中曽根を信頼していた。特に冷戦真っただ中の当時、ソ連に対するレーガンの強硬姿勢を中曽根が強力に支持したことは心強かった。

中曽根の巧みな外交術とレーガンとの個人的友情は、アメリカとの衝突回避に役立った。中曽根は思想的には強硬なナショナリストであり、対米貿易黒字は拡大し続けていたが、アメリカの怒りを買わずに済んだ。現在では到底不可能な偉業だろう。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

ニュース速報

ビジネス

スイスのUBSとクレディ・スイス、配当制限へ

ビジネス

ファストリ、通期営業益43.7%減に下方修正 コロ

ビジネス

JAL、5月予定の新LCC就航を延期 新型コロナの

ビジネス

日産が5000億円融資枠を要請、3メガ銀と政投銀に

MAGAZINE

特集:ルポ五輪延期

2020-4・14号(4/ 7発売)

「1年延期」という美談の下に隠れた真実── IOC、日本政府、東京都の権謀術数と打算を追う

人気ランキング

  • 1

    韓国・文在寅政権にとって日韓通貨スワップの要請は諸刃の剣

  • 2

    中国製コロナ検査キット使い物にならず、イギリス政府が返金を要求へ

  • 3

    気味が悪いくらいそっくり......新型コロナを予言したウイルス映画が語ること

  • 4

    新型コロナウイルスをめぐる各国の最新状況まとめ(8…

  • 5

    在日ドイツ大使館、日本の新型コロナ検査数の少なさ…

  • 6

    夏には感染は終息する、と考えていいのか? 

  • 7

    中国からの医療支援に欠陥品多く、支援の動機を疑え…

  • 8

    コロナウイルスで露呈した中国の本性(一応、ジョー…

  • 9

    「コロナ失業」のリスクが最も高い業種は?

  • 10

    「世界は中国に感謝すべき!」中国が振りかざす謎の…

  • 1

    「コロナ失業」のリスクが最も高い業種は?

  • 2

    BCGワクチンの効果を検証する動きが広がる 新型コロナウイルス拡大防止に

  • 3

    台湾人だけが知る、志村けんが台湾に愛された深い理由

  • 4

    日本が新型肺炎に強かった理由

  • 5

    日本で新型コロナの死亡率が低いのは、なぜなのか?

  • 6

    韓国・文在寅政権にとって日韓通貨スワップの要請は…

  • 7

    コロナで破局?ベビーブーム? 「自宅待機」で変わ…

  • 8

    新型コロナで都市封鎖しないスウェーデンに、感染爆…

  • 9

    中国からの医療支援に欠陥品多く、支援の動機を疑え…

  • 10

    人前で「コロナ」と言ったりマスクをするだけで逮捕…

  • 1

    日本が新型肺炎に強かった理由

  • 2

    一斉休校でわかった日本人のレベルの低さ

  • 3

    「コロナ失業」のリスクが最も高い業種は?

  • 4

    BCGワクチンの効果を検証する動きが広がる 新型コロ…

  • 5

    ドイツ政府「アーティストは必要不可欠であるだけで…

  • 6

    日本で新型コロナの死亡率が低いのは、なぜなのか?

  • 7

    韓国はなぜ日本の入国制限に猛反発したのか

  • 8

    新型コロナショック対策:消費税減税も現金給付も100…

  • 9

    フランスから見ると驚愕の域、日本の鉄道のあり得な…

  • 10

    豪でトイレットペーパーめぐって乱闘 英・独のスー…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!