コラム

福祉受給者は締め出し? トランプ新移民規制の衝撃

2019年08月24日(土)15時40分

トランプ政権は「自由の女神は白人だけのもの」だと思っている? MIKE SEGAR-REUTERS

<トランプ政権が永住権やビザの審査を厳格化する方針を発表──厳し過ぎる規制がもたらす思わぬ副作用とは>

アメリカの移民当局がグリーンカード(永住権)やビザの申請を審査する際、「公共の負担」になる可能性が高い人を排除しようとするのは、今に始まったことではない。

1999年に当局が発表した指針では、「主に政府の支援により生計を立てている人」および将来そうなる可能性が高い人を「公共の負担」になりそうな人と定義している。ただし、この指針では、メディケイド(低所得者医療保険制度)などの公的扶助を受けていても影響はないと明記していた。

トランプ政権が8月12日に発表した新しい移民規制では、「公共の負担」になりそうな人の定義が拡大される。「直近36カ月の間に公的扶助を延べ12カ月以上受給」していれば該当するものとされた(2種類の公的扶助を1カ月ずつ受給した場合は、延べ2カ月と計算される)。

しかも、審査で考慮される公的扶助の範囲も広げられた。連邦政府、州政府、地方自治体の現金給付だけでなく、これまで対象外だった医療支援、食料支援、住宅補助の一部も含まれるようになる。

規則変更の影響を受けるグリーンカード申請者とビザ申請者は、既にアメリカ国内に居住している人だけで約100万人に上る。新規制は10月15日から実施されることになっている。

これに対しては、リベラル派を中心に反対の声が上がっている。14日には、新規制の差し止めなどを求めて13州の司法長官が裁判を起こした。

新規制の下では、メディケイドや食料支援、短期の住宅補助を受けている人は、職に就いていても「公共の負担」になりそうな人と見なされる。しかし、これらの人たちは、主に政府の支援により生計を立てているわけではないと、13州は指摘する。高齢者を除けば、メディケイド受給者の50%以上が職に就いていて、80%近くは世帯の少なくとも1人が職を持っている。

トランプ再選戦略の一環

月々の平均で見ると、アメリカの人口の20%以上は何らかの公的扶助を受けている。ところが、新規制が実施されれば、合法的に公的扶助を受けている移民たちが市民権を取得する道が閉ざされてしまう。

新規制の導入後は、グリーンカードの取得やビザの更新に悪影響が及ぶことへの不安や制度への誤解などにより、公的扶助制度の利用を避ける移民が増加すると、13州は指摘している。

「連邦政府と州政府の食料支援や医療支援などの利用を見送ったり、利用をやめたりするケースが増えれば、多くの勤労者階級の移民世帯の健康状態が悪化し、生産性も低下する。救急医療を利用する人が増え、経済的苦境に陥ったり、ホームレスになったりする人も増える。そうなれば、州政府の負担はかえって増す」というのだ。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏銀行、資金調達の市場依存が危機時にリスク=

ビジネス

ビットコイン一時9万ドル割れ、リスク志向後退 機関

ビジネス

欧州の銀行、前例のないリスクに備えを ECB警告

ビジネス

ブラジル、仮想通貨の国際決済に課税検討=関係筋
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 3
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 10
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story