コラム

17歳でイスラエルから移住、ファッション的な美しさと対極の美を求めて

2018年12月03日(月)11時40分

From Lihi Brosh @lihibrosh1

<まだ22歳。ビジュアルアーティスト兼写真家のリヒ・ブロッシュには、一瞬にして親密性と信頼感を作り出す力がある>

行動力と、一瞬にして親密性と信頼感を作り出す力、それは写真家にとってしばしば最も大きな武器になる。コネクションづくりのことを言っているのではない。作品づくりにおいてだ。

今回紹介するイスラエル人のリヒ・ブロッシュもそんな才を持っている。まだ22歳。17歳の時に、イスラエルの写真界では限界があると感じ、一人でニューヨークに移り住んだビジュアルアーティスト兼写真家である。そのときから既に、ニューヨークの街が孕む熱気と多様性の文化に揉まれて、自分のビジュアル的感覚を新しい世界として昇華していきたいと思っていた、という

ブロッシュとはつい最近、友人のアーティスト、クレイトン・パターソンを通して知り合った。クレイトンが最近足を悪くし、また彼の妻のエルサの認知症が悪化し始めていたため、ブロッシュがちょっとした手伝いを兼ねて、ニューヨークのローワーイーストサイドにあるクレイトンのオフィスに顔を出していたのだ。

第一印象は、そのきゃしゃな体型からか、暗い感じがむしろ漂っていた。だが話し出すと、急に雰囲気が変わっていく。とりわけ、彼女がタイミングよく投げかけてくる、偽りのない好奇心と洞察力が同じコミュニティで生まれ育ったかのような錯覚を与えるのだ。

そうしたコミュニケーション能力を持ったブロッシュの作品は、ポートレート・シリーズ、特に、ブロッシュ自身がよく訪れるナイトクラブなどで撮影されたものに魅力的な作品が多い。大半の被写体は、それがニューヨーク、ロンドン、東京を問わず、その場で知り合った人たちだ。だが既に触れたように、心地良い親密性と信頼感が漂っているのである。

加えて、作品には、自信に満ちた不可思議な緊張感が存在している。そのことも無論、被写体との初対面の関係というところからきている。

とはいえ、被写体の事物が――とりわけ流行りの場所で遊んでいる者たちが――しばしば逆説的なファミリーフォト感覚で放つ、「このポーズ、今日の私、クールでしょう。だから、写真を撮りなよ」といったようなものはほとんどない。むしろ、彼、彼女たちの奥底から自発的に発生したものだ。それを、偽りのない自信としてブロッシュは切り取っているのである。

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ南部、医療機関向け燃料あと3日で枯渇 WHOが

ワールド

米、対イスラエル弾薬供給一時停止 ラファ侵攻計画踏

ビジネス

米経済の減速必要、インフレ率2%回帰に向け=ボスト

ワールド

中国国家主席、セルビアと「共通の未来」 東欧と関係
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増すばかり

  • 4

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    迫り来る「巨大竜巻」から逃げる家族が奇跡的に救出…

  • 8

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story