コラム

離婚と、リストラの不安──ベテラン写真家が自身を投影した作品

2018年10月24日(水)16時00分

From Aristide Economopoulos @aeconomopoulos

<受賞歴もあるアリスティード・エコノモプロスが、自身のサイト以外では発表したことのなかったパーソナルな作品。微妙な距離感が作品に漂っている>

今回紹介する写真家は、ニューヨークの近郊、ニュージャージ州のジャージーシティに住むアリスティード・エコノモプロスだ。同州のスター・レジャー紙のベテラン・スタッフフォトグラファー、47歳である。

すでに20代、30代前半から名を馳せていた。アメリカのロデオを白黒写真で切り取ったストーリーはワールド・プレス・フォト(世界報道写真コンテスト)のスポーツ部門に入賞し、また、2001年の9.11の フォトエッセイも大きなインパクトをアメリカ国内外の写真界に与えた。

だが、そうした栄光よりも、エコノモプロスが現在撮っているパーソナルな作品のほうがより重みがあるかもしれない。なぜなら、そうした作品は、彼自身のメタファーであり、またセラピーになっているからだ。

4~5年ほど前から本格的に撮り出し、自身のサイト以外では実質上発表したことがないという、ニューヨークの有名なビーチをモチーフとしたコニーアイランド・シリーズ、および2001年の11月から撮るようになったというキューバ・シリーズはその典型だろう。

彼のパーソナルな作品の多くは、華やかな色彩、黄色や赤のトーンでしばしば構成されている。だがハイコントラストな、あるいは色の押し付けがましさを感じさせるようなキツイ調子ではない。多くの写真が夕暮れ時の非常に柔らかい光を選んで撮影されているためだ。あるいは、絶妙な日中のシンクロのフラッシュ撮影で。そのため見る者は、しばしば写真のイメージの中に紛れ込んでしまうかのような錯覚さえ覚える。

そうした溶け込むような感覚は、エコノモプロスが親密性とエモーション、とりわけソフト・エモーションを大切な要素としているからでもある。構図はあまり気にかけないという。人間性とそれが織りなす瞬間、瞬間を感じ取りたいと。

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英インフレ率目標の維持、労働市場の緩みが鍵=ハスケ

ワールド

ガザ病院敷地内から数百人の遺体、国連当局者「恐怖を

ワールド

ウクライナ、海外在住男性への領事サービス停止 徴兵

ワールド

スパイ容疑で極右政党議員スタッフ逮捕 独検察 中国
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバイを襲った大洪水の爪痕

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    冥王星の地表にある「巨大なハート」...科学者を悩ま…

  • 9

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 7

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story