コラム

離婚と、リストラの不安──ベテラン写真家が自身を投影した作品

2018年10月24日(水)16時00分

被写体へのアプローチの仕方は気負いのない、ある種典型的なドキュメンタリー作家の手法だろう。あるがままの瞬間を狙って、被写体に気づかれる前にシャッターを押すことが多いが、一方で信頼性を築くため、撮影前に被写体とコミュニケーションを取ることも少なくない。ただ、正式に許可を求めることは通常はなく、親しくなったある時点で自然な感じで撮影を始めるという。

そのせいか、微妙な距離感が彼の作品には漂っている。心地良いが、時として緊張感を強いられる、あるいは疎外感を感じる距離感だ。それが作品の色調、つまり華やかさと落ち着きをはらむパラドックス的な要素と相まって、加速され、平凡な日常のシーンに不可思議な感覚を生み出しているのだ。

実のところ、こうしたものは、冒頭で触れたように、エコノモプロス自身の内面から来ている。彼は数年前に離婚し、そのせいでうつ病を抱えていた。また、近年のジャーナリズム界のリストラを目にし、将来に大きな不安も抱えている。それらが自らのメタファーとして、コニーアイランド・シリーズには反映されているのだ。キューバ・シリーズも、自身が9.11後に被ったPTSDのセラピーとして始まった。

とはいえ、こうしたシリーズは、エコノモプロスの単なるダークサイドの投影ではない。9.11の数週間後に初めてキューバを訪れた際、彼はアメリカ人として反感をもって迎えられると思っていた。だが、9.11の悲劇を知っていたキューバ人たちは、それも通りすがりの見知らぬ人までが、エコノモプロスを抱きしめて同情してくれたという。

その時、それが人生だ、と思った。辛いだけでなく、思いがけない喜びや幸せも巡ってくる。それを写真を通して感じたい、表したいんだ、と彼は言う。

今回ご紹介したInstagramフォトグラファー:
Aristide Economopoulos @aeconomopoulos

ニューズウィーク日本版 AIの6原則
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月22日号(7月15日発売)は「AIの6原則」特集。加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」/仕事・学習で最適化する6つのルールとは


プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米小売売上高、6月+0.6%で予想以上に回復 コア

ワールド

ガザ攻撃で22人死亡 カトリック教会も被害 伊首相

ビジネス

TSMC、第2四半期AI需要で過去最高益 関税を警

ワールド

ウクライナ議会、スビリデンコ氏を新首相に選出 39
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 2
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 3
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 4
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 5
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 6
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 7
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 8
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 9
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 2
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 10
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story