コラム

日本の「玉突き留学」政策の何が問題か?

2023年05月10日(水)14時00分

ですが、本当にそうでしょうか。昨今の社会経済情勢から考えると、能力的には大学教育を受ける準備ができていても、経済的な理由で進学を断念する層というのは一定程度あり、どうやら拡大しつつあるようです。仮にその数が相当にあるとしたら話は別です。

仮に国公立や私学への助成金が、学生1人あたりのコストの50%をまかなっているとします。(あくまで大雑把な仮のストーリーとしてお考えください)外国人留学生にも同一の学費を提示することで、事実上は国内の学生と同じ助成金を負担しているわけで、これも仮に50%とします。

もしも十分な能力があって、大学教育にコストをかけた分だけ将来は日本の社会に貢献する可能性がある日本人の若者が、経済的に困窮しているとして、その場合は100%費用を免除(給付奨学金)するとします。そこで必要な50%のコストの分だけ、留学生に出す50%の助成金を回したらどうでしょうか。

10万人留学生を減らして、その分を国内生を無料にするように使うと、その無償の奨学金の部分の50%かける10万人は「追加のコスト」になります。ですが、留学生の国内での定着率、つまり日本経済への長期ベースでの貢献は、国内生よりは低いはずです。

ここの部分のコスパ計算は簡単ではありませんが、国策として遂行する以上は、かなりキッチリとした計算をしておく必要があります。もちろん、非常に大きな予算が動く話ですし、日本社会の将来がかかる話でもあります。だからこそ、このコスパ計算をしっかりやっていただきたいのです。

そんなわけで、個々の政策を見てゆくとやむを得ない面が見えてくるのは事実です。ですが、全体として「50万人の日本人を留学に出して、40万人の外国人を日本に留学で招く」という「玉突き、トコロテン」方式の政策には、どうしても不自然さを感じざるを得ません。

21世紀型の高付加価値創出のできるエリートの育成は無理なので外国に出してしまおう、中付加価値創造を支えるハングリーな若者の発掘は国内ではムリだから国外の若者を引っ張ってこよう、どちらも日本経済への将来的貢献は半分ぐらいで御の字......どう考えてもこの政策の全体像はそうした話に聞こえます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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