コラム

バイデン機密文書問題をめぐる民主党の不気味な沈黙

2023年01月18日(水)14時30分

米記者団からは首脳会談そっちのけで機密文書問題への質問が飛んだ Jonathan Ernst-REUTERS

<問題は2024年大統領選への出馬方針にかかわるだけに、バイデンは「だんまり」を決め込んでいる>

岸田首相が西側歴訪外交の最後に、ワシントンでバイデン大統領との会談を行いました。年初の1月13日のことですが、この際には晩餐会や正式な共同記者会見は行われませんでした。日本サイドは要求したようですが、ホワイトハウスの側は「とてもできる状態ではなかった」のです。

日本ではあまり大きく報じられていませんが、バイデン大統領はオバマ政権の副大統領だった時期に入手した機密文書を、自宅事務所などに違法に保持していたというスキャンダルが1月9日に突如暴露されています。ホワイトハウスは、この問題をめぐって大揺れに揺れています。日米首脳が共同会見をしても、アメリカ側の記者は「この問題しか聞こうとせず」日米関係に関する会見は成立しないのは明らかであり、見送りは正しい判断でした。

事件の概要としては、現時点では「機密」というスタンプの押された文書が数ページ単位で数回発見されたというもので、軽微なものと考えられます。トランプ前大統領が退任後に機密文書を大量に持ち出した疑惑と比較すると、悪質性ということでは100分の1にもならないでしょう。ですが、現職の大統領としては明らかに失点ですし、何よりもこれでバイデン大統領と民主党は、トランプの「犯罪」を非難することが難しくなりました。

この「事件」を受けて共和党は活気づいています。何しろ下院はまがりなりにも共和党が多数ですので、大統領に対する国政調査権を発動して政権を揺さぶるための格好の材料が出てきたからです。一方で、司法省の方はガーランド長官が早速「特別検察官」を任命するという、言葉は悪いですが「バカ正直」な対応をしており、これによって中立機関による大統領に対する捜査が公式に始まりました。

再選出馬の意欲はトーンダウン

この問題をめぐって、民主党サイドには不気味な沈黙が流れています。

まず、バイデン大統領ですが9日に事件が発覚し、直後の10日に「自分は驚いている」と述べた以降は完全にダンマリを決め込んでいます。13日の日米首脳会談で、ホワイトハウスの執務室内で簡単な会見があった際にも、岸田氏を差し置いてアメリカの記者たちはこの問題の質問を浴びせましたが、大統領は何も答えませんでした。

以降は、この問題については何を聞いてもダンマリという姿勢です。理由としては、「事実関係を調査中」であるとか「私邸を探られたという陰謀めいた暴露に怒っている」という可能性もありますが、何よりもこの問題が「自分の進退」に結びつくからだと考えられます。

進退というのは、大統領が2024年の選挙に出馬するかどうかです。この点に関しては、2021年の前半には「もちろん出馬する」と言い続けていました。それが中間選挙のあった秋になると「家族と相談して決める」という言い方にトーンダウンしています。出馬表明は、遅くとも3月までには行わないと不自然ですが、現在大統領は一切語ろうとせず、そのまま出馬問題に関する「ダンマリ」が機密文書スキャンダルについての「ダンマリ」と重なる形になっています。

その「家族との相談」というのはジル夫人とじっくり検討するということだと思います。高齢の大統領に対して9歳下のジル夫人は「支える役」だと思われてきました。ところが年末年始にはそのジル夫人の健康問題も報じられており、快方に向かっているということですが、これも疑心暗鬼を呼んでいます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

インドGDP、7─9月期は前年同期比8.2%増 予

ワールド

今年の台湾GDP、15年ぶりの高成長に AI需要急

ビジネス

伊第3四半期GDP改定値、0.1%増に上方修正 輸

ビジネス

独失業者数、11月は前月比1000人増 予想下回る
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story