コラム

真珠湾攻撃から80年、日米の相互和解は果たされたのか?

2021年12月08日(水)14時20分

こうした動きと並行して、ホノルルと長岡の「和解」も実現していきました。2007年には、長岡の森民夫市長と、ホノルルのムフィ・F・ハネマン市長(いずれも当時)によって、日本の花火には死者への追悼の意味があること、そして長岡市が世界でも最も優れた花火の生産地であることから、日米和解の象徴として毎年2月に花火大会を行うことが決められたのです。

この長岡花火による「和解」に加えて、2009年には当時の天皇皇后(現上皇、上皇后)両陛下がカナダ訪問に続いてハワイを訪問された際には、パンチボウルの丘にある国立太平洋記念墓地で献花をされています。こうした流れの延長に、2016年12月末における当時の安倍晋三首相による真珠湾アリゾナ記念館における献花につながっていったのだと思います。

この献花は、同年5月の伊勢志摩サミット後の、オバマ大統領(当時)の広島での献花とセットとなることで、日米の相互献花外交を完結させることとなりました。2019年に急逝されたジャーナリスト松尾文夫氏が主張していた、相互和解はここに完結したのです。こうした一連の和解が積み重なることで、真珠湾の80年がここまで静かな1日になったのだと思います。

日米離反工作に使われる危険性

一つ気になるのは、この重要な真珠湾80年にタイミングを合わせるように、一部の日本の政治家グループが靖国神社に参拝したことです。問題は、1978年以降の靖国神社には、東京裁判で死刑となったA級戦犯が合祀されていることです。以降に参拝するのは、戦犯が被害者であり、その名誉を回復するのが正義だという主張が込めた覚悟の行為と言われる危険があるわけです。

東京裁判は、勝者が敗者を事後法的に裁くという点では、法律論としては問題を残しました。ですが、政治的に見れば、東京裁判は、ポツダム宣言受諾、米軍による占領、サンフランシスコ講和、国際連合設立とを全てセットとして、第二次大戦の戦後処理を構成するものです。ですから、その否定は戦後体制への反逆に繋がります。

つまり政治家の靖国参拝は、場合によっては日米離反工作の口実に使われかねない危険性を持つということです。まして、真珠湾の80年というタイミングは、軽率であると思います。

もちろん、一連の和解の積み重ねに基づいて、日米関係は盤石であり強固な信頼関係が成立しています。ですが、それに甘えて「あくまで内向きの行為」として政治家が参拝をしても良いのかというと、疑問は全くゼロではありません。東アジアの軍事外交については注意の必要な時期だけに、日米離反工作の口実は少しでも減らしておきたいからです。

ニューズウィーク日本版 英語で学ぶ国際ニュース超入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月6日/13日号(4月30日発売)は「英語で学ぶ 国際ニュース超入門」特集。トランプ2.0/関税大戦争/ウクライナ和平/中国・台湾有事/北朝鮮/韓国新大統領……etc.

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減

ビジネス

米KKRの1─3月期、20%増益 手数料収入が堅調
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story