コラム

窮地のクオモNY州知事、高齢者施設に患者を戻した判断が生んだ「3つの誤算」

2021年02月16日(火)15時00分
窮地のクオモNY州知事、高齢者施設に患者を戻した判断が生んだ「3つの誤算」

昨年春のコロナ第1波でのクオモ知事の対応は国内外から称賛された Hans Pennink/Pool/REUTERS

<高齢者施設でのコロナ死亡者数を少なく報告していたことについては、同情すべき点もあるが......>

2020年春の新型コロナウイルスの感染爆発では、毎日昼に定例会見を行って情報公開に努めていたニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事のマネジメントは国内外から称賛されていました。私もこの時期は、毎日リアルタイムで会見を見ては新型コロナに対する政策論議における参考にしていたのは事実です。

ところが、そのクオモ知事が政治的な窮地に立たされています。その原因は、州内の高齢者向けの長期入所型福祉施設、つまり老人ホームなどでの新型コロナ死亡者数に関して、過少に発表していたという問題です。

具体的な数字ですが、ニューヨーク・タイムズ紙などによる最新報道では、こうした施設入所者における新型コロナの死亡者数は1万5000を超えているにもかかわらず、1月末の段階では8500しか報告していなかったとされています。つまり、高齢者向けの施設入居者におけるコロナ死亡者数のうち「施設外」つまり病院などにおける死亡者数を「施設入居者における死亡者数」にカウントしていなかったというのです。

ちなみに、ニューヨーク州全体の新型コロナ死亡者数(現時点で「疑い死」を含めて約4万1000)については、カウント漏れはないとされています。ですから、全体の数を過少に報告して死亡者数を隠蔽したということではありません。

知事が想定した「最悪のシナリオ」

では、どうしてこの問題が知事にとって、政治的なダメージになっているのかというと、2020年3月25日の段階で、クオモ知事はある重要な決定をしたからです。それは「施設入居者で新型コロナ感染者が出た場合は、病院に搬送しないで施設での療養とする」というものです。

その理由はシンプルでした。当時は爆発的な勢いで新型コロナの患者が増加している時期でした。そこで、クオモ知事は専門家チームの意見などを踏まえて、「最悪のシナリオ」を設定し、そのシナリオに基づいて新型コロナ専用病床と人工呼吸器の準備をするべく奔走したのでした。

例えば、ニューヨーク市では軍の支援を受けて見本市会場を数日で臨時の病棟に改造したり、軍の病院船の来航を要請したりしたのですが、それはこの「最悪のシナリオ」を前提としていました。人工呼吸器については、知事は毎日のようにトランプ大統領(当時)などに要請を続けて数の確保に必死になっていたのでした。

そんななかで、知事としては「施設にはベッドがあるし、医療対応もできる」のであって、そうした人は施設に戻ってもらって、少しでもコロナ病床を空けておきたいという判断をしたのです。当時のリアルタイムでの発表によれば、高齢者を犠牲にして、壮年の患者を救うといった「トリアージ(命の選択)」という意識はなかったはずです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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