コラム

実現遠のくトランプ弾劾、「トランプ票」を敵に回したくない共和党議員たち

2021年01月28日(木)19時45分

トランプはこれから闇将軍として暗躍するのか Leah Millis-REUTERS

<議会上院の弾劾裁判で共和党議員から17人の造反者が出る可能性は非常に低い>

1月6日に発生した連邦議会議事堂乱入事件を受けて、暴力行為を扇動したトランプ前大統領に対しては、時間をおかずに「弾劾」の手続きが開始されました。弾劾の理由は「反乱の扇動」という一言で、この事件に関する重い責任を示すものです。下院では1月13日に採決が行われて賛成232(民主222、共和10)、反対197(全て共和)で可決されました。

法的には、この下院による弾劾案可決のことを、「インピーチメント」と呼びます。トランプは、合衆国史上初めて「2回インピーチされた」大統領となりました。この時点では、任期が残すところ7日しかないために、弾劾案の上院送付と、上院での審議開始は1月20日のバイデン就任後に行うことになりました。

この段階では、大統領であった時点での重大犯罪に関しては、大統領を退任した後でも弾劾の対象にできるという前提で議論が進んでいました。その場合は、大統領を罷免するのが目的ではなく、あくまで大統領としての犯罪を認定し、その上で、付帯決議を行って公職への再立候補禁止、大統領年金の支給停止の措置を行うのが目的だとされていました。

上院では、とりあえずバイデン政権の閣僚の承認手続きを進めることを優先するとして与野党合意が出来ており、トランプの弾劾裁判については2月8日から審理に入るとしていました。つまり、上院議員100名の全員を陪審員として行う正規の弾劾裁判です。弾劾には3分の2、つまり67票が必要ですから、50対50の現在の勢力分野からすると、共和党から17名の賛成が必要です。

政争に巻き込まれるのを避けたい最高裁

ところが1月26日になって、正式な弾劾裁判に進む前の段階で、ケンタッキー州選出のランド・ポール上院議員(共和)の提案で、「退任後の大統領への弾劾裁判は違憲である」という決議が出されました。確かにこの問題については、数日前から妙な展開になっていました。

というのは、大統領の弾劾裁判というのは最高裁長官が裁判長になるという規程が憲法に定められているのですが、今回の裁判についてはロバーツ最高裁長官は、参加を拒否しています。長官は理由を明らかにしていませんが、憲法の条文をそのまま読めば、在任中の大統領に対する弾劾裁判では最高裁長官が裁判長をするとあるだけですから、退任後の場合は確かに長官として裁判長になる義務はないわけです。

憶測としては、最高裁としては出来るだけ政争に巻き込まれるのは避けることが、中長期的な最高裁の権威を維持するためには上策と考えたということではないかと思われます。この最高裁の動きが、ポール議員の「今回の弾劾は違憲」という決議に、ある種の追い風になった感じもあります。

その決議ですが、結果的には否決されました。つまり上院としては「今回の弾劾は合憲」ということで、粛々と2月の裁判へ進むということになるわけですが、問題は票決の数字です。賛成は45で、反対は55でした。つまり共和党の造反は5名にとどまったのです。これでは、可決に必要な67の賛成、つまり造反17というのには、全く届いていないことになります。さらに決議の内容が「弾劾裁判は違憲」ということですから、賛成した45名は、弾劾裁判で賛成に回る可能性は非常に低いわけです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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