コラム

日本でPCR検査数が劇的に増えないのはなぜなのか?

2020年10月27日(火)17時00分

東京都内で4月に実施されたドライブスルー検査のシミュレーション Issei Kato-REUTERS

<PCR検査を担当する「臨床検査技師」は、国家資格の専門職で「臨時増員」が難しい>

アメリカは、下手をすると新型コロナウイルスの「第3波」となりそうな気配もあります。春に東海岸と太平洋岸で発生したピーク、夏に南部や中西部で発生したピークに続いて、全国における新規陽性者の数は再び上昇に転じているからです。

ですが、社会は意外と平静です。その理由としては、PCR検査の件数が爆発的に増加しており、検査を受けたい人はほぼ受けられるようになったという点があると思います。

例えば、ジョンズ・ホプキンス大学のデータによれば、アメリカの場合、現在ではほぼ1日に120万件の検査数となっています。

一方で、日本の場合ですが、厚労省としては、PCR検査の最大検査能力としては、7万5026件(暫定値、10月24日時点)プラス検疫所における検査能力が1万300件(抗原定量検査)となっています。これ自体が決して多くないわけですが、実際の検査数は平日の場合は1日平均2万人程度で推移しています。つまり、アメリカの60分の1というわけです。

この検査数については、アメリカの投資関係者などから、日本のコロナ対策は優良だと思うが、検査数が少ないのでどうしても確証がつかめないということで、「どうして日本はもっと検査をしないのか?」と何度も聞かれました。

「なぜ日本は検査しない?」

その都度、これは別に隠すためではないし、日本の場合は超過死亡数も大きくないことを説明しているのですが、なかなか納得してもらえません。その一方で、どうして検査数を抑制しているのかということでは、日本国内では様々な議論があるようです。

抑制の理由としては、偽陰性の人が過度に安心して感染を拡大するとか、反対に偽陽性の場合にその接触者に対するトレーシング発生などの問題が出るからという説明がされています。ですが、感染拡大をするという点では、偽陰性の人も、無検査で実は陽性の人も大差はないと考えられます。

つまり、検査数を増やすことで、偽陰性の人がウイルスを撒き散らすマイナス効果が、陽性者が発見されて感染抑止につながるプラスの効果を相殺してしまうとは考えにくいわけです。確かに偽陽性という結果は余計なコストになるでしょうが、それを加えてもプラス効果を打ち消すほどではないと思われます。

検査数については、安倍前総理が8月28日に行った「今後のコロナ対策および辞任の意向等についての安倍内閣総理大臣記者会見」で明言していますが、政府は1日20万件の検査体制を目指すとしています。また検査数拡大によって陽性者が増加しても社会的に対応できるように、「今後は政令改正を含め、運用を見直します。軽症者や無症状者は宿泊施設や自宅での療養を徹底し、保健所や医療機関の負担軽減を図ってまいります(同会見より、原文のまま)。」という方針が示され、菅内閣に継承されています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

エヌビディアが独禁法違反、中国当局が指摘 調査継続

ビジネス

無秩序な価格競争抑制し旧式設備の秩序ある撤廃を、習

ワールド

米中閣僚協議2日目、TikTok巡り協議継続 安保

ビジネス

英米、原子力協力協定に署名へ トランプ氏訪英にあわ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 3
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 4
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    【動画あり】火星に古代生命が存在していた!? NAS…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story