コラム

アメリカのミレニアル世代はなぜ60年代に回帰するのか?

2020年06月16日(火)16時20分

シアトルには60年代カウンターカルチャーが連綿と受け継がれている Goran Tomasevic-REUTERS

<団塊世代のベトナム反戦運動が、勝利の記憶とともに一つのカルチャーとして世代を超えて受け継がれている>

5月25日のミネソタ州ミネアポリスにおける白人警官の黒人男性に対する暴行死事件以来、アメリカでは「BLM(Black Lives Matter)」というスローガンを掲げたデモが全国的な広がりを見せています。

なかでも米西部のワシントン州シアトルでは、市警察の東分署のある「キャピトル・ヒル」という地域を、デモ隊が占拠しています。占拠は6月8日に始まり、最初は「CHAZ(キャピトル・ヒル自治区)」と称していたのが、ここ数日「CHOP(キャピトル・ヒル・占拠デモ)」という名称も使われるようになっています。

自治区という言い方が強すぎて右派を挑発するのを避けたのか、あるいは2011年以来の「占拠デモ」の伝統を継承しようとしているのかどうかは分かりませんが、とにかく主張としては、警察組織の改革を掲げています。

占拠しているエリアの中では、定期的に音楽やダンスのイベントが行われたり、フードステーションというのが設置されて無料の食事が提供されたりしています。また、菜園があったり、テント村ができたり、救護施設もできています。エリアの中に位置する交差点には「スピーチ・エリア」というのが設けられていて、演説会や討論が行われています。

オルタナを生んだ北西部の土地柄

この「占拠」については、トランプ大統領は自分がテロ組織指定している「アンティファ(反ファシズム団体)」であると言ってみたり、別の機会には「醜悪なアナキスト(無政府主義者)」だと言って、一種の脅しとして軍隊による制圧を示唆しています。ですが、シアトルのジェニー・ダーカン市長は「軍事占領というよりは、ご近所のパーティーの延長のようなもの」という形容をしており、事態が深刻な衝突に発展することを警戒しています。

今回の事態ですが、ここシアトルは、その南に位置するオレゴン州のポートランドとともに、元々がそうした「土地柄」だということはあると思います。例えば、1999年にWTO(世界貿易機関)の閣僚会議がここシアトルで行われた際には、経済のグローバル化や多国籍企業の拡大に反対したデモ隊が、街の中心部で大規模なデモを行って警官隊と衝突したという事件がありました。

文化的にも、スターバックスなどを生み出した背景には、若者たちの語らいの場という街の性格が反映していますし、それはパール・ジャム、ニルヴァーナなど西海岸北部のオルタナ・ロックを生んだものとも重なります。アメリカ西部の北の果てということで、豊かな自然に育まれた一種のユートピア志向のようなものがあるのかもしれません。

今回の「占拠」ですが、土地柄だけでなく、世代的なものも大きな要素と思います。今回のデモの中心となっているのは、ミレニアル世代、つまり2000年以降に成人した世代の中、つまり1980~90年代生まれが主体となっています。そこで疑問になるのが、この世代がどうして「60年代の先祖がえりのような行動」をするのかということです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ハマス、新たに人質1人の遺体を引き渡し 攻撃続き停

ワールド

トランプ氏、米国に違法薬物密輸なら「攻撃対象」 コ

ビジネス

米経済、来年は「低インフレ下で成長」=ベセント財務

ビジネス

トランプ氏、次期FRB議長にハセット氏指名の可能性
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 3
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止まらない
  • 4
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 5
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 6
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 9
    【香港高層ビル火災】脱出は至難の技、避難経路を階…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story