コラム

アメリカのミレニアル世代はなぜ60年代に回帰するのか?

2020年06月16日(火)16時20分

それはアメリカの団塊世代における「ベトナム反戦運動」の歴史的な意味から来ていると思います。日本の場合は、同じように団塊世代が「ベトナム反戦運動」を繰り広げましたが、最終的には追い詰められた部分が内ゲバや国際テロなどに走る一方で、「敗北感」を残しただけで終わりました。

一方で、アメリカの場合は「自分たちがベトナム戦争を終わらせた」という一種の勝利の記憶を持ちながら、団塊世代は社会の表舞台に立っていきました。例えばビル・クリントンは、学生時代にベトナム反戦運動に参加していたことを公然と表明して選挙に勝って1992年にホワイトハウスに乗り込みました。

2008年にオバマを大統領に当選させたのも、そうした系譜に連なる有権者たちであると思います。つまり「ベトナム反戦運動」というのは政治的な立場を超えて、一種のカルチャーとして、そして一世代上の世代に対する反抗と勝利の記憶として語り継がれているのです。

ですから、1980~90年代に生まれ、1960~70年代の空気感とは全く無縁の世代が、今でもビートルズに深い影響を受けているのです。ボブ・ディランの詩がノーベル文学賞を受けたのもそうです。今回の「シアトル占拠」は、そうした形で、世代から世代へ、親から子へと面々と継承されてきたカルチャーの系譜の延長に、自然な形で発生しているのだと思います。

ただ、ベトナム反戦派からは、80年代に「ヤッピー」と言われてバカにされてきたドナルド・トランプという人は、この種のカルチャーには直感的な憎悪を抱いているかもしれません。そのトランプに影響された、カウンター勢力が出てくるようですと、平和的な「占拠」が暴力の応酬の場になる危険性もゼロではないと思います。この事態を、引き続き注目していきたいと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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