コラム

日本にはびこるブラック校則、その原因と対策を考える

2019年08月29日(木)16時10分

もう一つ大切なのは、ブラック校則が残っている原因についてです。ブラック校則というのは、学校や教師が保守的であって、「教育に効果がある」と考えているから続いているのではないと思います。学校を敵視するのは簡単ですが、本当の「敵」はどこにいるのかを見極めることも必要ではないでしょうか。

その一つは社会の、特に高齢世代の余計な干渉です。「染髪の強制」の背景には、「オタクの学校には茶髪の生徒がいて許せない」などと電話をかけてくる「地域の声」があるのだと思います。もしかしたら、学校はそうしたトラブルで疲弊しているのかもしれませんし、そもそもトラブルに対処するような物理的な余裕がないのかもしれません。

そうだとしたら、このプロジェクトなどが主体となって、そうした「余計な干渉」に対して徹底的に批判し、防止することが大切です。それでも根絶できないのなら個々のケースに対しては、学校ではなく、専門組織にゆだねつつカウンセリングも含めた対応を考えていく必要があるように思います。

もう一つは、保護者のクレームです。猛暑なのに水筒の持参を禁止している学校が問題になっていますが、その原因としては「勝手に持参した水筒の水を飲んで子どもが健康を害した場合」に、学校が非難されたり、場合によっては訴訟を受けたりする問題があるようです。そのため「水ならいいが、水以外は禁止」とか「水以外の液体(スポーツドリンクやお茶など)が入っていないか検査せざるを得ない」という対応を取っている学校もあるようです。

自分の子供が健康被害を受けた場合には、手段を選ばずにクレームを言ってくる保護者は根絶が難しいのが現実です。それならば、こうしたケースについては制度によって学校を守っていくしかないと思います。具体的には、例えば学校が加入する形での賠償保険制度を思い切って拡張するという対策も考えられます。クレーマー的な保護者への対応も、疲弊している学校現場や教育委員会ではなく、保険会社がサービスの一環として対応するというのはどうでしょうか。

理不尽な攻撃を受ける可能性があるから、理不尽なまでに防衛的にならざるを得ない、ブラック校則が残っている現実の背景にあるのは、そのようなメカニズムかもしれません。それならば、少数の理不尽な攻撃については保険でリスクヘッジすることで、学校内に常識を取り戻すことを考えるべきです。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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