コラム

突如騒がしくなった予備選レーストップのバイデン周辺

2019年04月04日(木)13時30分

もう1つのスキャンダルは、昨年の中間選挙の際にジョージア州の知事選挙に出馬して惜敗しつつも全国的な知名度を高めた黒人女性のステーシー・エイブラムス氏の暴露です。エイブラムス氏は「バイデン陣営から、大統領選でコンビを組まないか」というアプローチがあったことを明かしつつ、自分は拒否したし、バイデン氏については大統領候補に相応しくないと考えていると表明したのです。

党内左派として将来を期待されているエイブラムス氏としては、ここでバイデン氏を見限っておいたほうが、政治的に有利という計算が見え隠れしますが、この暴露について言えば、これもまたバイデン氏の印象を下げる効果として作用しています。

つまり、「トランプ時代を終わらせる」ために大統領選で勝負するには、白人男性で党内中道派のバイデン氏の属性は「マイナス」であり、その点を補完するために左派で黒人女性のエイブラムス氏にアプローチしたことは、打算的に過ぎるという印象が広まったからです。

誇り高いバイデン氏としては、こうしたスキャンダルに巻き込まれるのを潔しとしないで、立候補を辞退する可能性もありますが、仮にそうだとしても、また反対に自身の名誉回復を賭けて立候補するにしても、民主党としてはイヤな展開となってきました。

今回の騒動は、あらためて民主党に「働き盛りの年齢」で「党内宥和のできる中道左派で、左派政策にも実行可能な中道政策にも理解が深く」「トランプ時代を帳消しにできるような女性か有色人種の新鮮味のある本命候補」というのが「いない」ことを浮き彫りにしています。民主党の予備選は、もうこの時点で泥仕合の様相を呈してきました。

こうした展開は、他でもないトランプ大統領を喜ばせるだけです。実際にトランプ氏は「ジョー、楽しんだかい?」つまり、バイデン氏に対して、女性を「触って楽しんだか?」と呼びかける、そんな極めて下品な発言をしています。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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