コラム

動き出したトランプ次期政権、「融和」か「独自色」か?

2016年11月15日(火)16時20分

Mike Segar-REUTERS

<トランプ次期政権の人事・政策策定は、保守主流派との融和とトランプ独自の人脈活用を織り交ぜ、かなりスピーディーに進行している。この段階で日本の安倍首相が会談するのは、悪いタイミングではない>(写真:勝利宣言でプリーバス共和党全国委員長と肩を組むトランプ)

 ドナルド・トランプ政権への移行に向けて、次期政権チームが曲がりなりにも走り出しました。中身はともかく、スピード感は確かにあるようです。例えば、先週9日未明の歴史的勝利からわずか30数時間のうちに、トランプ次期大統領が現職のオバマ大統領を訪問し、政権引き継ぎの打ち合わせを開始。さらには、政策と人事について日々発信を始めているからです。

 現時点での次期大統領の動きは大きく分けて「融和」、つまり選挙戦で叫び続けた極端なメッセージを打ち消し、常識的な内容にシフトするというものと、「独自色」、つまりコアな支持者の期待を裏切らないための強硬論を実行に移す動きの2つに分かれていると言っていいでしょう。

 まず、「融和」ですが、何と言っても当確直後に行った勝利演説で「分断の傷を癒やして和解へ」と述べ、翌日に会談した大統領に対して丁重な姿勢を見せたように、現時点ではこちらが基本的なトーンとなっています。そして、この「融和」というのは、かなり徹底しているように見えます。

【参考記事】トランプの外交政策は孤立主義か拡張主義か

 例えば、トランプ当選に触発されて、全国で調子に乗った支持者が「ヘイト落書き」などの事件を起こしているわけですが、トランプ自身が「私はこれを聞いて悲しくなった。これは止めて欲しい、そう申し上げる。カメラに向かっても申し上げる、止めて欲しい」と、CBSのインタビューでハッキリ言っています。「イスラム教徒の入国禁止」をウェブサイトから削除したことと併せて、当然ともいえますが、重要な「融和」の動きだと言えるでしょう。

 オバマケア「廃止」という強硬姿勢は修正するようですし、「同性婚への支持」もあらためて打ち出しています。また、不法移民摘発は犯罪歴のある人だけ、メキシコの壁はフェンスのみという発言も出ています。犯罪歴のある不法移民については、今のところ300万人を強制送還と言っているわけですが、物理的にそんなことは無理なのでさらにトーンダウンする可能性もあるでしょう。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story