コラム

北陸新幹線、E7・W7系新型車両は坂道にも強い

2015年03月17日(火)12時35分

 鉄道車両の問題としては、(2)が重要です。30パーミルの勾配というのは新幹線の場合に、これとは別に九州新幹線の筑紫トンネル付近に35パーミルの坂というのがあるのですが、この高崎~軽井沢間の30パーミル勾配については、全長約40キロ弱という、その長さが大変に長いわけです。これは高速鉄道に関しては大変な「難所」です。

 まず、登坂に必要なパワーが必要です。具体的には、登坂時に例えば緊急停車をしたとして、起動できないといけないわけです。そのための動力性能が求められます。そうは言っても「上り坂」はそんなに深刻な問題ではありません。

 問題は「下り坂」です。40キロ弱の長い区間にわたってブレーキなしで新幹線が下るということはあり得ません。同時に、ブレーキディスクに接触させるような摩擦型のブレーキでは過酷な使用を続ける中で、整備が大変になるわけです。

 そこで、長野新幹線の開業以来、この区間に関しては抑速回生ブレーキというのを使って坂を降りることになっています。簡単に言うと、全ての電動機(モーター)を発電機にするのです。そうすると、モーターは電気を作る代わりに、大きな抵抗を生み出すので、車両の加速を抑えることができるわけです。しかも、この間には電気を使うのではなく、作りながら走っているので大変な省エネになるわけです。

 ちなみに、日本のほとんどの電車、電気機関車、そして新幹線では何らかの形でこの「回生(発電)ブレーキ」を使っています。中でも、東海道山陽新幹線のN700・N700A系では、緊急用ブレーキ以外はほとんど全てこの回生ブレーキで止まるようになっていたりします。

 さて、この北陸新幹線用のE7・W7では、もちろんこの碓氷峠トンネルの「上り・下り」に関しては十分な性能を持っているわけです。実際に乗車してみると、特にトンネルの闇の中を延々と続く「下り」を安定して走っている感覚がありました。

 この「坂を下りる」際の性能に関しては、クルマだけでなく、金沢開業の一年前の2014年3月から同時に導入されたデジタルATCの効果もあるようです。この碓氷峠トンネルというのは、1997年の長野開業以来供用されているわけですが、今回の金沢延伸に向けて、新型車両の投入と、ATCの更新により安全性と速達性が高められているのです。

 いずれにしても、この碓氷峠トンネルの長い下り坂を、定員934名の12両固定編成という巨大なクルマが、一切摩擦ブレーキを使用することなく、粛々と「210キロ」の高速で安全に降りていく、しかも同時に相当な電力を発電して架線に戻していくという姿には、日本の新幹線技術の1つの成熟があると思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米中、9日にロンドンで通商協議 トランプ氏が発表

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、雇用統計受け利下げ急がずと

ワールド

米、中国の原発向け関連機器の輸出許可を停止=関係筋

ワールド

中国、米大手自動車向けレアアース輸出に一時許可付与
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:韓国新大統領
特集:韓国新大統領
2025年6月10日号(6/ 3発売)

出直し大統領選を制する李在明。「政策なきポピュリスト」の多難な前途

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが、今どきの高齢女性の姿
  • 2
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット騒然の「食パン座り」
  • 3
    脳内スイッチを入れる「ドーパミン習慣」とは?...「朝の1杯」と「心地よい運動」の使い方
  • 4
    日本の女子を追い込む、自分は「太り過ぎ」という歪…
  • 5
    壁に「巨大な穴」が...ペットカメラが記録した「犯行…
  • 6
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 7
    プールサイドで食事中の女性の背後...忍び寄る「恐ろ…
  • 8
    ガザに向かうグレタ・トゥーンベリの支援船から救難…
  • 9
    ウーバーは絶体絶命か...テスラの自動運転「ロボタク…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「銀」の産出量が多い国はどこ?
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシストの特徴...その見分け方とは?
  • 4
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    日本の女子を追い込む、自分は「太り過ぎ」という歪…
  • 7
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
  • 8
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 9
    ウクライナが「真珠湾攻撃」決行!ロシア国内に運び…
  • 10
    「ホットヨガ」は本当に健康的なのか?...医師らが語…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 7
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 8
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 9
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 10
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story