コラム

中間選挙「共和党勝利」で、アメリカは右傾化するのか

2014年11月04日(火)12時04分

 例えばISIL(自称「イスラム国)の問題に関して、共和党はオバマのことを弱腰だと批判しています。ですが、実際には共和党にも地上軍を派遣してイラク領内からISILを追放する覚悟はありません。

 ウクライナをめぐってオバマはロシアに対して弱腰だという批判もしていますが、ロシアとの関係、特にプーチンとの関係で言えば、ジョージ・W・ブッシュとコンドリーザ・ライス(当時の国務長官)のコンビで外交をやっていた時点では、極めて友好的だったことも忘れてはなりません。

 中国に関してはどうでしょう? 共和党はもともと「反共の党」であり「台湾ロビーの影響下にある」から、反中国であって、日本に取っては頼もしいというイメージがあるかもしれませんが、これも疑わしいと思います。

 現在の共和党は、ブッシュの8年間に「江沢民、胡錦濤との蜜月」を実現したことに象徴されるように、どちらかと言えば親中国の姿勢が明らかです。米国企業が生産拠点として中国に依存することも推進してきましたし、その場合の国内雇用の減少は民主党に比べて問題にしないという傾向があります。

 何よりも、イデオロギーにとらわれず大胆な現実主義路線を展開する点で、共和党の外交は民主党よりも柔軟です。毛沢東と周恩来を相手に隠密外交を展開して世界をアッと言わせたキッシンジャー外交を行ったのが、共和党のニクソン政権であることを忘れてはならないと思います。

 では、今の共和党は穏健であって、リベラルなタカ派と言われるヒラリー・クリントンなどの民主党の方が保守的なのかというと、そうとも言えません。はっきり言って、特に今回の中間選挙に関して言えば「両党の間にそんなに違いはない」、つまり「全国レベルの争点はない」のです。

 ある意味では、この選挙は2016年の大統領選に向けて「何か新しいストーリー」を組み立てていく転換点だと言えるでしょう。例え共和党が勝っても、アメリカが右傾化することへの警戒ないし期待というのは、あまり意味がないと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米、エアフォースワン暫定機の年内納入希望 L3ハリ

ビジネス

テスラ自動車販売台数、4月も仏・デンマークで大幅減

ワールド

英住宅ローン融資、3月は4年ぶり大幅増 優遇税制の

ビジネス

LSEG、第1四半期収益は予想上回る 市場部門が好
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story