コラム

アメリカやヨーロッパから「ISIS」への志願者、その背景は?

2014年09月09日(火)12時49分

 第三の要素としては、これは要因と言うよりはテロリスト募兵の手段ですが、とにかくSNSなどインターネットの使い方が上手いわけです。インターネットを通じて、敵国の世論を沸騰させたり、反対に恐れさせたりといった世論操作もさることながら、個々の「不満分子」を自分の陣営に引っ張り込むためのコミュニケーション術は洗練されています。

 特にプロパガンダ目的での動画の使い方が上手く、アルカイダの場合は、わざわざ解像度の低い動画で「おどろおどろしさ」を出していた気配がありますが、このISISの場合は凄惨なシーンを高精細で撮影・配信することで効果を出しています。

 そうした現代ならではの方法で、潜在的な支持者を増やし、そうして狙いを定めたターゲットは、自分たちの仲間に引っ張り込む、そうしたテクニックは相当に巧妙であるようです。そうしたIT利用が「クール」だということから、アメリカの若者の中では、特にイスラム教徒でもないのに「サブカルチャー的な興味」でISISに接近する層もあります。

 では、オバマ政権としてはどのようにして、このISISに対抗していこうとしているのでしょうか? この件に関しては、大統領として、当初「まだ戦略が確立していない」という発言を流してしまったことが、今になって大きく叩かれています。とにかく、オバマとしては積極的に行動して、特にクルドの人々などへの人道上の問題を食い止めなくてはならない、政治的にはそうした状況です。

 だからと言って、オバマとしては地上軍の派遣というのは、過去の政治的な方針を捨てることになりますし、世論の支持も望めないでしょう。ということは、現状のようなイラク中央政府やクルド勢力への軍事顧問団派遣に空爆を加えるというスキームから外れるのは難しいということになります。

 一つの考え方としては、イラク政府、イラン政府、NATOがしっかりと連携をして、その枠組の中でクルドの自治を認めるということ、つまりISISの周囲を外交によって固めることが必要と思います。その次の問題としては、シリアが鍵になりますが、ISISのエネルギーを止めるには、シリアの内戦を終わらせなくてはならないわけで、非常に難題であると同時に注目点です。シリア問題にはロシアも絡んでくるだけにいっそう複雑です。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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