コラム

「橋下イズム」と「ティーパーティー」その同時代性

2011年11月28日(月)12時21分

 予想通りの圧勝でした。大阪市の橋下候補はともかく、大阪府の松井候補も大差での勝利、しかも歴史的な高投票率ということですから、この選挙結果は無視できません。それにしても、アメリカで見ていて思うのは、日米の政治風土が酷似しているということです。

 非常に小さな例では、例えば私の住んでいる地区では、大学町のプリンストンでも似たような事件がありました。町の中心部にある自治区(プリンストン・ボロ)と、その周辺を取り囲むような町(プリンストン・タウンシップ)というのは、コスト配分を巡る争いから100年以上分裂した自治体を形成していたのです。ですが、今年行われた住民投票の結果で、最合併することになりました。その目的は単純で行政二重コストの削減です。試算によれば、合併後の全域で、固定資産税の減税が可能になるというのです。勿論、リストラの痛みは伴いますが、双方での住民投票の結果ですから仕方ありません。

 このプリンストン町の動きは、小規模でありまた実務的な決定ですから、それほど顕著なイデオロギー的な動きではありません。ですが、その背後にあるのは「ティーパーティー的な発想」だということは言えると思います。もっと大きな規模での争いとなると、例えばウィスコンシン州の州政をめぐるバトルが有名です。ここでは州職員と共和党系の知事とが正面衝突して、ストライキとロックアウト、そしてリコールという戦術を駆使してお互いに譲らない状況が続いています。

 こうしたプリンストン町の合併にしても、ティーパーティーにしても「小さな政府」を強く志向する政治のモメンタムは、日米共通だと言えるでしょう。今回の大阪「ダブル選挙」においては、府市の合併効果(堺市を含む)とはリストラ効果に他ならないわけで、大阪都という威勢の良い名前に反して、その志向するところは「小さな政府」だからです。

 では、小さなプリンストン町のように、合併イコール目に見える二重コスト削減、そして具体的な減税や財政改善という形での住民への利益還元は可能なのでしょうか? 実はそのあたりの道筋が見えていないことも、アメリカの「ティーパーティー」と日本の「維新」は似ています。反エリート的な心情に、エリートとは既得権者というイメージを突きつけて、いつの間にか、公共セクターの活動全てが「エリートの独善、民衆の敵」という断罪をしてゆく、その論理的飛躍も似ています。

 更に言えば、技術革新による競争力維持であるとか、その場合の公共セクターが担うべき分野に対しても否定的であったり、商業だけの見地から生産拠点の空洞化、具体的には中国への雇用シフトに関して無警戒であることなどの点も酷似しています。

 では、アメリカのティーパーティーが中間層の票に浸透した以上に、今回の「大阪の乱」が地滑り的勝利に終わった原因は何なのでしょうか?

 一つには、日本の場合、中付加価値製品の競争力喪失と最先端ビジネス移行の行き詰まり、少子高齢化による生産と消費の激減の恐怖という厳しい閉塞感があり、その情念の噴出口として「既得権益のぶっ壊し」という小さな穴を空けさえすれば、巨大な票が動いてしまったということがあります。

 ですが、それだけではないと思います。今回の圧勝のもう一つの要因は「余りにもお粗末な敵失」でしょう。民主+自民の既成政党の動きは、例えばアメリカでティーパーティーに対抗している民主党(米)とは比較にならないほどの低レベルでした。

 まず、橋下新市長が「どうして日の丸・君が代にこだわったのか?」という戦術を全く理解していないという「大バカ、大間抜け」ぶりにあります。あれは非常にシンプルな戦術なのです。維新の人たちは、別に戦前の日本に戻したいわけでも「たちあがれ」的な形で高齢者のカルチャーに寄り添いたいのでもありません。

 そうではなくて「日の丸・君が代」で攻めれば「敵はきっとイデオロギーから反発して感情的になる」だろうというのが彼等の「狙い」なのです。そうして「庶民の生活レベルの話や、大阪全域の経済再建」などの実務的な、具体的な政策論を説く代わりに、イデオロギー的な橋下批判に彼らが専念すれば「シメシメ」という作戦です。

 イデオロギー的にカッカすることで、「反独裁」とか「反ファッショ」などという絶叫しかできない場所に追い詰められ、それが正義だと我を忘れた「反橋下」陣営を見ていると、中間層は選挙戦の展開を見ながら、これでは自分たちの民生向上にも閉塞感打破にも「全く役に立たない」という風に見てしまったわけです。

 こうなると完全に橋下氏の「思うツボ」です。一旦自分たちがモメンタムを獲得してしまえば、反対派が「反独裁」を叫ぶということは「漠然と橋下支持を固めた中間層」に対して「お前たちはバカだ」と見下しているということになり、「叫べば叫ぶほど票が逃げていく」無限の循環に陥るからです。まんまと罠にはまったわけで、以降は全く勝負にならなかったのです。弁解の余地はありません。

 オバマやヒラリー、あるいは草の根の民主党(米)はそこまでバカではないし、支持者たちも「ティーパーティーはファシズム」などという馬鹿なケンカの売り方はせずに、「悪いのは格差」であり、具体的に「雇用をよこせ」という「占拠デモ」に行っているわけです。当然であり自然の動きです。これに比較すると、今回の反橋下陣営の体たらくはお話になりません。

 では、橋下陣営は今後、大阪をどうするのでしょう? リストラ効果は(できたとして)多少はあると思いますが、肝心の成長戦略については余り期待できないと思います。大阪が少なくとも、アジアとの結びつき、西日本と東日本の要に位置する地の利を生かし、人材を改めて集め育てて繁栄を取り戻すための具体策は全くの白紙だからです。

 ですが、「破壊」なくして「意味のある現実的で中道的な選択肢」に辿りつけるかというと、現在の日本の政治状況の中では「破壊やむなし」ということでしょうか。それにしても、「反橋下陣営」は余りにも、余りにもお粗末でした。これでは、民意が「破壊」を選択したというのも止むを得ない、そのように思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

MAGAZINE

特集:日本人が知るべきMMT

2019-7・23号(7/17発売)

アメリカの政治家が声高に主張する現代貨幣理論(MMT)は経済学の「未来の定説」になり得るのか

人気ランキング

  • 1

    子宮内共食いなど「サメの共食い」恐怖の実態

  • 2

    巨大なホホジロザメが一匹残らず逃げる相手は

  • 3

    シャチがホホジロザメを餌にし始めた

  • 4

    家畜のブタが人食いブタに豹変──ロシア

  • 5

    全長7mの巨大ヘビが女性を丸のみ インドネシア、…

  • 6

    マイナス40度でミニスカ女子大生の脚はこうなった

  • 7

    中国にいたパンダに石を投げる愚か者(再生1億回)

  • 8

    苦境・韓国の中国離れはトランプに大朗報

  • 9

    韓国・文在寅大統領「対北朝鮮制裁違反という日本の…

  • 10

    異例の猛暑でドイツの過激な「ヌーディズム」が全開

  • 1

    水深450メートル、メカジキに群がるサメ、そのサメを食べる大魚

  • 2

    巨大なホホジロザメが一匹残らず逃げる相手は

  • 3

    子宮内共食いなど「サメの共食い」恐怖の実態

  • 4

    シャチがホホジロザメを餌にし始めた

  • 5

    地下5キロメートルで「巨大な生物圏」が発見される

  • 6

    4万年前の線虫も......氷河や永久凍土に埋もれてい…

  • 7

    全長7mの巨大ヘビが女性を丸のみ インドネシア、…

  • 8

    家畜のブタが人食いブタに豹変──ロシア

  • 9

    同性愛を公言、ヌードも披露 女子サッカー米代表の…

  • 10

    異例の猛暑でドイツの過激な「ヌーディズム」が全開

  • 1

    水深450メートル、メカジキに群がるサメ、そのサメを食べる大魚

  • 2

    巨大なホホジロザメが一匹残らず逃げる相手は

  • 3

    世界最大級のネコ、体重320キロのアポロを見て単純に喜んではいけない

  • 4

    子宮内共食いなど「サメの共食い」恐怖の実態

  • 5

    自撮りヌードでイランを挑発するキム・カーダシアン

  • 6

    異例の猛暑でドイツの過激な「ヌーディズム」が全開

  • 7

    若年層の頭蓋骨にツノ状の隆起ができていた......そ…

  • 8

    日本の重要性を見失った韓国

  • 9

    シャチがホホジロザメを餌にし始めた

  • 10

    地下5キロメートルで「巨大な生物圏」が発見される

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 資産運用特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
ニューズウィーク日本版編集部員ほか求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!