コラム

新年度、日本の企業は少なくとも海外出張予算を確保すべき

2010年04月02日(金)12時13分

 2008年9月の「リーマン・ショック」以来、日本の各企業は経営のスピードを下げる「安全運転」モードが続いています。具体的には、あらゆる部分での費用のカットが行われているのですが、どうやらターゲットとして最も一般的なのは出張費用、特に海外出張の費用のようです。

 例えば、2009年の3月までは状況はまだ最悪ではなかったようですが、4月に新年度入りすると「海外出張費用」は極端に削減されて行ったようです。例えば、その直後から「新型インフルエンザ」のパニックが起きたのですが、その際に各企業が極端なまでの「海外出張禁止令」を出したのは、感染防止というよりも「これで海外出張を根絶できて費用を削減できる」という思惑があったとも言えるでしょう。

 JALの破綻は様々な要素の集積ですが、例えば同時期にANAも厳しい経営を強いられているのも、こうした「海外出張の低迷」の結果だと言えるでしょう。各企業はまるで過去の出張費が壮大な浪費であったかのように振る舞っています。

 ですが、この間に日本経済がなかなか不況から脱することができない、特に中長期の発展シナリオが描けていない背景には、この「海外出張禁止」による情報と人脈の断絶、各市場の現場感覚の喪失といった問題があるように思えてなりません。

 この2008年から2009年に、世界市場ではエレクトロニクスの三星、LG、自動車の現代、製鉄のポスコなどといった韓国勢がシェアを伸ばしているのですが、その背景には日本勢が内向きになっていたのとは反対に、危機であるからこそ新市場の開拓をという彼等の積極姿勢があるように思います。

 その最悪の2009年度が終わりました。北米市場の景気が上向きつつある中、新年度が始まりましたが、各企業はどのぐらい海外出張予算を組んでいるのでしょうか? これ以上、世界の動向に遅れないために、内向きのセンチメントに汚染されないために、とにかく多くの人が海外に足を運んで最新の市場の空気を知り、人脈を再構築することはどうしても必要だと思うのです。

 そうは言っても、いきなり多額の予算を復活するのは難しいかもしれません。そこで、私には1つ提案があります。これまで「危機管理のため」だとして日本の多くの企業は1人での単独出張よりは、2人でのペア、あるいはそれ以上のグループでの行動を推奨してきました。これを止めて、海外には「1人で」出すことを徹底するのです。そうすればコストは2分の1、3分の1になります。

 どうしてペアがいけないかというと、行っている間に出張者同士が日本語で会話をするからです。外国語が出来る方が通訳に回り、出来ない方はその通訳に甘えるという構図ができます。結果的に、人材が鍛えられるという効果は薄くなります。問題は語学だけではありません。欧米やアジアのビジネスのスタイルからは、即断即決を求められるケースが多いのですが、これにどう対処するか、つまり、取引先や現法と日本との間でどれだけ見事に「引き裂かれるか」という部分でも、1人でコンフリクトを背負うのと、2人で愚痴をこぼしながら旅程をこなすのとでは人材育成という観点からも雲泥の差が出ると思います。

 思えば、バブルの絶頂期には多くの日本企業がマンハッタンに意味もなく「情報収集拠点」を置いて、そこに集団で多くの社員を出張させていました。ですが、そうした企業の多くは真の国際化からはほど遠いまま、そうした拠点についても撤退に追い込まれています。

 とにかく、若い人に権限を持たせて海外に単独で出し、徹底的に現地事情と日本の間で「引き裂かれる」経験をさせる、これがその人材だけでなく、日本の各企業を、ひいては日本経済を再生させるためには必要だと思うのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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