コラム

内向き社会ニッポンを「行ったり来たり」する

2009年10月21日(水)16時07分

 今回1週間ほど日本に滞在して感じたのは、日本社会が極めて内向きになっているということです。まず感じるのが「海外」に関するイメージが街から消えているという感覚です。以前なら地下鉄の構内や街角にあった外国ブランドの広告が減っていますし、電車の吊り広告にある雑誌の記事内容なども国内の情報がほとんどでした。

 雑誌といえば、伝統的に海外志向だった「高級女性雑誌」などでも、国内の記事が目立つ一方で、そもそも外国のファッションなどを「売り」にしていた雑誌の中には続かなくなっているものもあるようでした。

 TVもそうです。昔はバラエティ番組の中には、タレントさんが海外に行って、色々な風物を紹介しながらクイズの問題を出したり、海外グルメの情報で1つの番組が出来たりしていましたが、その種類の番組は消えてなくなっています。予算の問題が大きいのでしょうが、視聴者の関心も薄れているのだと思います。

 映画などはもっと変化が激しく、街を歩いていても、新聞の映画上映情報を見ても、邦画のシェアが圧倒的で、洋画の存在感は低下しています。こちらは、ハリウッド作品の高額な配給コストも問題なのだと思いますが、「TVよりはしっかりした作りの日本のドラマ」が受けるという風潮が支えているのだと思います。

 ところで、日本市場が縮小することは、ハリウッドにも影響があるようです。というのは、日本市場からの収益が期待できる「シリアスな人間ドラマやSF」といったジャンルが弱体化するという問題です。ここのところ、スティーブン・スピルバーグ監督などが制作費調達に苦心しているのも、その影響でしょう。『AI』のような「アメリカ人には難しすぎる」ため、日本市場の収益が過半となったような作品は生まれにくくなっているのだと思います。

 成田空港は悲しいぐらいガラガラですし、飛行機も空席が目立っていました。スケジュールボードを見ると、共同運行便の増加ということもあって、例えば日米間の便数はかなり減っているようです。

 時節柄アメリカのメジャーリーグは、プレーオフシーズンが始まっており、TVでの中継もあるにはあるのですが、解説音声は全部日本のスタジオでつけているようでした。そのためか、中継に臨場感がないのです。そんな中、日本プロ野球のクライマックス・シリーズが盛り上がっていたり、アメリカでは見られない「赤い帽子をかぶった松井秀喜選手」のコーヒーのCFなどを見ていると、だんだんと「内向き指向」に慣れっこになってしまう、そんな気分にさせられるから不思議です。ただ、同時に飛び込んできた、城島選手の日本復帰には複雑な気分があります。捕手の位置づけ、コミュニケーションのスタイルなどで、収穫があったというよりは、撤退に追い込まれたというニュアンスが感じられるからです。

 今回の内向き指向の背景にあるのは、やはり「リーマン・ショック」以来の不況だと思います。海外からやってきた「災厄」に身を縮めている感覚、もっと具体的に言えば「高付加価値製品の輸出依存では痛い目に遭うから、国内の廉価品ビジネスへ」という経営上の感覚もそこには感じられます。

 この「ひきこもり」感覚は、私には何となく既視感があります。それは9・11直後のアメリカのリベラルが持っていた「優しさと閉じこもり」のムードに似ている、そんな感覚です。保守派が「絶対に報復だ」といきり立っていた一方で、9・11直後のリベラルは「国内指向と癒しの文化」に走っていたのです。外来のショックに対する防衛本能のようなものかもしれません。

 ところで、今回の日本の「内向き指向」は、「最先端は疲れるから戦うのを止めよう」という後ろ向きの感覚なのでしょうか? 勿論、多少はそうした「引いた姿勢」はあると思います。ですが、それ以上に「もう海外には学ぶものはない」という感覚もあるのではないでしょうか?

 例えば、若者のファッションで「アメカジ」的なものは、もう日本では古くなっています。アメリカが原宿ファッションのマネをする時代ですらあります。食文化でも、東京で「本場のイタリア料理」などと言ってももう目新しさはありません。先ほどの映画にしても、それからJーPOPの音楽にしても、日本指向というのは必ずしも退行ではないのです。

 ということは、この「内向き指向」は当分続くかもしれません。それがもしかしたら「遣唐使廃止後」に「国風文化」が開花したように、日本の文化やビジネスに独自性をもった成長をもたらすかもしれません。日本経済に新たな成長路線が見えてくるとしたら、改めて国際競争力を取り戻して戦いのフィールドに参戦するというよりも、日本国内にある「全く新しい発想」を形にしてゆく方が近道、そんな風にも思うのです。

 その意味で、こうした時代だからこそ、日本の発想法を尊重しながら、海外と「行ったり来たり」を続けることの意義もある、そんな風にも思います。

 丁度、滞在中にゴルフの「日本オープン」の中継を見る機会がありましたが、米国から戻ったばかりの悪コンディションの中、石川遼プロが素晴らしい集中力を見せていたのには感心しました。また年齢的にはずっと上の先輩プロたちが、石川プロの才能に敬意を表しつつ、真剣に戦っている姿も感動的でした。プレーオフの2ホールなどは鳥肌の立つような好勝負でした。

 石川プロの場合は、米国ツアーへの本格参戦をすべきという声もありますが、本人と周囲には日本ツアーへのこだわりもあるようです。それは日本ツアーを盛り上げるということだけでなく、異なったカルチャー、異なったプレッシャーの世界を「行ったり来たり」することでの成長ということが無視できないからではないでしょうか?

 私にとっても、「行ったり来たり」は良い刺激になります。例えば今回は「日本でオバマ大統領の平和賞受賞に祝賀ムードがある」ということに、最初は違和感を感じていたのです。これもまた、内向きニッポンならではの「ズレた」反応、そんな印象でした。勿論、米国内の政治的文脈から考えるとそうなりますし、そのことを伝える意味はあると思います。

 ですが、日本に滞在しながら感じたのは「オバマ大統領の受賞それ自体は正しい」という認識です。とにかく、核軍縮宣言やイスラムとの和解宣言は、歴史に残るものだからです。言葉だけという非難もあるにしても、言葉としては第1級の、そして歴史を動かす力をもったモノであることは間違いないと思います。その意味で、アメリカの左右対立の中で「曇っていた眼」が日本の空気の中で開かされたという思いもあるのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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