コラム

訃報、マイケル・ジャクソン

2009年06月26日(金)11時19分

 6月25日の東部時間午後5時過ぎに「マイケル・ジャクソン氏緊急入院」というニュースが一斉に流れ、徐々に危篤あるいは死亡という説が報じられていきました。公式の死去報道は6時15分過ぎ、LAタイムスとAP電によるものでした。以降、ニュース専門局は全て追悼番組に切り替わっています。

 アメリカでのマイケルへの評価というのは、近年は芳しくありませんでした。幼児虐待疑惑が出る以前からも、整形手術をしたり肌を漂白したことが黒人のアイデンティティを「抹消しようとした」として、非難の的になっており、90年代以降は積極的なファン以外にとっては、その存在がスキャンダルになっていたのです。

 ですが、今回の死のショックは、そうしたネガティブなイメージを少しずつ変え始めたようです。CNNのキャンベル・ブラウン(1968年生まれ)などは「ネガティブなマイケル」しか知らない世代ですが、死去報道の中で往年のパフォーマンスの映像を見て「マイケル・ジャクソンってすごかったんですね」と言っていたのが良い例です。全面的ではないにしても再評価がされてゆくかもしれません。

 アメリカ人の中には認めない人も多いのですが、マイケルという人は彼なりに黒人の社会的地位を高める役をしたように思います。スターダムを駆け上ってゆく中で、ある臨界点を彼は確かに越えていきました。そして「マイケル・ジャクソンという黒人ミュージシャン」ではなく、顔の見える、1人の人間としての「マイケル・ジャクソン」を多くの人の心に印象づけていった、それはやはり事件といって良いと思います。

 それにしても「レーガン時代は遠くなりにけり」という感慨を抱かずにはいられません。マイケルの亡くなった病院がUCLA付属の「ロナルド・レーガン・メディカル・センター」だというのも奇縁でしょうか。そういえばこの日には、女優ファラ・フォーセットの訃報もありました。

 成熟を拒んだかのような50歳の死を運命とするのか、少年時代より苦悩の多かったこの人に穏やかな老いの日々が与えられなかった残酷を恨むべきなのか、私には良く分かりません。ただ、ひたすらに悲しい死であったように思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏、トランプ氏と28日会談 領土など和

ワールド

ナジブ・マレーシア元首相、1MDB汚職事件で全25

ワールド

ロシア高官、和平案巡り米側と接触 協議継続へ=大統

ワールド

前大統領に懲役10年求刑、非常戒厳後の捜査妨害など
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    赤ちゃんの「足の動き」に違和感を覚えた母親、動画…
  • 8
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story