コラム

「密告奨励法」で中国は暗黒時代に逆戻り

2017年04月25日(火)11時00分
「密告奨励法」で中国は暗黒時代に逆戻り

<北京市は今月、スパイ取締りの手がかりとなる通報を奨励する新規定を交付。市民を相互監視させるやり方は、まるで共産主義下の旧ソ連や毛沢東時代の中国の再現だ>

北京市当局は4月10日、「公民によるスパイ行為の手がかり通報奨励弁法」という新規定を交付した。新規定は市民が電話や投書、直接訪問するなどの方法で、スパイ取締部門の北京市国家安全局に手がかりを提供することを奨励。通報に対して最高で50万人民元(約800万円)の奨励金を支払い、通報者の個人情報と身の安全は守る、と定めている。

習近平が中国のトップに就任して以来、反政府的な主張をする人々への取り締まりはますます激しくなっているが、外国人の管理もどんどん厳しくなっている。布教活動やNGO、あるいは人権活動に関わる外国人がスパイの罪名で秘密裏に逮捕される事件はしょっちゅうだ。

現在、この新しいスパイ通報規定がとんでもない結果をもたらすのでは、との憂慮が高まっている。政府が言いがかりをつけ、さらに強い権力を使って反政府活動家や中国の諸問題に関心のある外国人を迫害する恐れがあるからだ。

中国で最も有名な民間の情報パトロール組織は「朝陽群衆」と呼ばれる。中国当局は地域の時間に余裕のある暇な人(特に老人)を動員。物質的な報酬を与えることで、彼らを民間パトロール隊として組織した。彼らは警察と協力して、朝陽区内のいかなる疑わしい行為も察知し、積極的に手がかりを提供する。

朝陽区は北京市内の6つ区の中で最も面積が大きく、北京商務中心区(CBD)があり、外国が大使館を設置し、三里屯など外国人も住む高級住宅街もある......と、「ネタ」には事欠かない。2013年、北京の警察当局がある社会的影響の大きい事件の発表の中で通報者を「朝陽群衆」と呼ぶと、この神秘的な「朝陽群衆」が徐々に注意を集めるようになった。

【参考記事】一般市民まで脅し合う、不信に満ちた中国の脅迫社会

ネットユーザーのネタになった「朝陽群衆」だが、彼らがこの組織を皮肉る、あるいはネガティブに捉えるのは、結局彼らが密告者だからだ。北京市公安局の公式微博(ウェイボー)アカウントは2015年から、意識的に「朝陽群衆」という言葉を使い始め、今年2月には「朝陽群衆」というアプリも登場。北京市公安局がネットユーザーにダウンロードして使うよう奨励している。スマホユーザーはこのアプリを使えば、いつでも警察に自分が見た疑わしい事件を報告できる。

社会のすべての構成員を動員して「悪人」を通報させ、「悪人」の運動を捕まえる......「朝陽群衆」アプリと今回の新しいスパイ通報規定の登場は、共産主義時代のソ連や東ドイツ、そして毛沢東時代の中国を連想させる。

政府が国民相互に密告し合うことを奨励し、国民が互いを恐れる雰囲気をつくり出し、社会全体の相互の信頼が失われる。これと同じ事態が、まさに今の中国で再び起きている。

プロフィール

辣椒(ラージャオ、王立銘)

風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

ニュース速報

ワールド

米中が「第1段階」通商合意、関税発動猶予 米農産物

ワールド

米中の「第2段階」通商合意、複数回に分割も=米財務

ワールド

北朝鮮、衛星発射場で再び実験 米に対抗し「新兵器開

ワールド

特別リポート:ロイターの香港報道を制限、リフィニテ

>

MAGAZINE

特集:進撃のYahoo!

2019-12・17号(12/10発売)

メディアから記事を集めて配信する「巨人」プラットフォーマーとニュースの未来

人気ランキング

  • 1

    韓国「アナ雪2」1000万人突破の影でディズニー訴えられる 大ヒットを支えた「ドベ」とは?

  • 2

    英総選挙、驚きの保守党圧勝を読み解くと

  • 3

    カイロ・レンは嘘をついていた?『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』新キャラと予想

  • 4

    キャッシュレス化が進んだ韓国、その狙いは何だった…

  • 5

    共産党国家に捧げるジョーク:変装した習近平に1人の…

  • 6

    サルの細胞を持つブタが中国で誕生し、数日間、生存…

  • 7

    英総選挙、どっちつかずより「とっとと離脱」を選ん…

  • 8

    意識がある? 培養された「ミニ脳」はすでに倫理の…

  • 9

    殺害した女性の「脳みそどんぶり」を食べた男を逮捕

  • 10

    中国の探査機が月に持ち込んだ植物の種、ハエの卵...…

  • 1

    熱帯魚ベタの「虐待映像」を公開、動物愛護団体がボイコット呼び掛ける

  • 2

    インフルエンザ予防の王道、マスクに実は効果なし?

  • 3

    共産党国家に捧げるジョーク:変装した習近平に1人の老人が言ったこと...

  • 4

    中国で焚書令、文化大革命の再来か

  • 5

    カイロ・レンは嘘をついていた?『スター・ウォーズ…

  • 6

    東京五輪、マラソンスイミングも会場変更して! お…

  • 7

    殺害した女性の「脳みそどんぶり」を食べた男を逮捕

  • 8

    サルの細胞を持つブタが中国で誕生し、数日間、生存…

  • 9

    キャッシュレス化が進んだ韓国、その狙いは何だった…

  • 10

    トランプ、WTOの紛争処理機能を止める 委員たったの…

  • 1

    食肉市場に出回るペット 出荷前には無理やり泥水を流し込み...

  • 2

    「愚かな決定」「偏狭なミス」米専門家らが韓国批判の大合唱

  • 3

    「日本の空軍力に追いつけない」アメリカとの亀裂で韓国から悲鳴が

  • 4

    元「KARA」のク・ハラ死去でリベンジポルノ疑惑の元…

  • 5

    「韓国は腹立ちまぎれに自害した」アメリカから見たG…

  • 6

    文在寅の経済政策失敗で格差拡大 韓国「泥スプーン」…

  • 7

    殺害した女性の「脳みそどんぶり」を食べた男を逮捕

  • 8

    GSOMIA継続しても日韓早くも軋轢 韓国「日本謝罪」発…

  • 9

    日米から孤立する文在寅に中国が突き付ける「脅迫状」

  • 10

    何が狙いか、土壇場でGSOMIAを延長した韓国の皮算用

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 資産運用特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
「STAR WARS」ポスタープレゼント
ニューズウィーク試写会ご招待
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!