コラム

習近平が私営企業に押す「共産党印」の不安

2017年06月19日(月)11時00分

<中国共産党が開始した、私営企業内に党組織を作る運動が中国の経営者たちを戦慄させている。私有財産を公有化した文化大革命時代の政策を連想させるからだ>

中国共産党は最近、すべての私営企業を対象に「党建設がすべてを覆う」という運動を始めた。中国の歴史を少しでも知っている企業主たちの中には仰天し、自分の会社を閉じて全ての家族を海外に移民させた者もいる。

中国共産党が全ての企業の中に党組織をつくるだけなのに、どうして彼らはこのように恐れるのだろうか。

49年の共産中国建国後、毛沢東は「公私共営」という社会主義改造政策の名の下に全ての非公営企業、全ての土地、無数の商人と企業主の財産を公有化した。多くの金持ちは迫害され死亡し、政治の動揺で中国経済は停滞。30年間も発展のチャンスを逃した。76年に毛沢東が死去すると文革は終わり、鄧小平が「改革開放」を始めた。

鄧小平とその後の共産党の指導者の戦術は、私有経済の発展だった。共産主義はなかったことにして、私営企業と外国人の投資を許可。11年末には非公営経済がGDPに占める割合が50%を超えた。その時の指導者は恐らく党組織を私営企業の中に広めるなど考えたこともなかっただろう。

しかし12年に習近平がトップの座に就くと、私営企業に対して「党建設が全てを覆う」規定を強制。14年までに、全国297万私営企業の半分で党組織が設立された。外資企業も例外ではない。

今年4月20日、習近平は広西省でこう強調した。「党は党を管理し、党建設はすべて覆う」。私有制消滅を自らの任務とする共産党が、自らの党組織を私営企業に100%浸透させる、という意味だ。

共産党の私有財産権に関する「悪行」の記録は、ずっと金持ちたちを恐れさせてきた。習近平の登場以降、報道と言論の自由が後退し、人権派弁護士は大量に抑圧された。ドルの国外流出を厳格制限する政策はすでに外国人による投資に影響し、今また私営企業での党組織づくりを強行する。

様々なきざしに、嗅覚の鋭敏な人は大きな災難の到来を予感している。自分の企業に「共産党印」を刻印される前に、すべてがもっとひどくなる前に、企業家たちは決断を始めている。


<読者の皆様へ:今回の漫画コラムはいつもより更新が遅れました。私と妻が先月末、日本からアメリカに移住したためです。ようやくワシントンでの暮らしが落ち着き始めたところで、日本での3年の生活をとても懐かしく思い出します。読者の皆さんの支持に感謝しつつ、引き続きアメリカで努力します!>

プロフィール

辣椒(ラージャオ、王立銘)

風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ビットコイン再び9万ドル割れ、一時6.1%安 強ま

ワールド

プーチン氏、2日にウィットコフ米特使とモスクワで会

ビジネス

英住宅ローン承認件数、10月は予想上回る 消費者向

ビジネス

米テスラ、ノルウェーの年間自動車販売台数記録を更新
今、あなたにオススメ
>
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業界を様変わりさせたのは生成AIブームの大波
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    「世界で最も平等な国」ノルウェーを支える「富裕税…
  • 7
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 8
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 9
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 10
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story